品質リスクマネジメント概要

リスクとは、危害の発生する確率とその重大性で説明されるものを指します。医薬品の品質であれば、たとえば副作用がどの程度の確率で発生し、その副作用がどの程度健康に被害を及ぼすか、という概念をまとめたものがリスクです。医薬品の品質に関するリスクを管理することを、品質リスクマネジメントと呼びます。

医薬品製造における品質リスクは様々です。リスクの起きる場所は、医薬品製造に関わる全ての場所が上げられます。製造・品質・設備すべてにおいて、製品品質に影響を与える可能性があります。さらに、製造が品質に与える影響としては、薬が溶けやす過ぎたり溶けにくすぎたりする(溶出性の問題)、雑菌・異物の混入、記載情報の間違いなどがあります。これらの品質への影響は消費者だけではなく、製造したものにとっても悪い影響を与えうるものです。品質リスクマネジメントでは、これらの品質問題が発生する確率と重大性をコントロールすることを目指します。

リスクを管理するためには、3つの段階を踏む必要があります。まず、どのような場所にどのようなリスクがあるのか明らかにする必要があります。これをリスクアセスメントと呼びます。次に、リスクを減らす、もしくはなくすために、リスクの原因に対処します。これをリスクコントロールと呼びます。リスクコントロールの後、リスクを再評価することでリスクコントロールが適切に行われたのか確認し、リスクをより良く管理する方法をさらに考えます。これをリスクレビューと呼びます。この3段階を実施することで、リスクを適切に管理し、品質問題の発生を防ぎます。

リスクアセスメントとは、危害(ハザード、品質の問題のこと)を見つけ、分析し、評価することです。どのような危害が起こり、その危害が検出可能かどうか、危害の発生確率や重大性がどの程度かを評価します。評価にしたがい、対応策を考えます。リスクアセスメントの方法はたくさんあります。方法についてはいずれ説明しますが、どの方法においても、危害の発生確率、重大性、検出の難しさを適切に評価することが重要です。

リスクコントロールは、リスクに対処することを指します。リスクは受容できるか、低減させたほうがいいのか、リスクを減らすにはどうすればよいか、減らしたことによるコストは受け入れることができるか、リスクを減らすと別のリスクが発ししないかを適切に考え、対応します。リスクを減らすと、一般的にコストが多くかかります。たとえば異物の混入を防ぐことを考えると、可能な限り異物を除くのが望ましいですが、そうすればよい品質のものも除いてしまう可能性が高くなります。これがコストです。コストとリスクを比較し、最適なリスク-コストの配分を目指します。

リスクレビューとは、リスクコントロールの結果を見直し、リスクを再評価することです。再評価することでリスクを適切にコントロールできていることを確認し、不十分であればさらなる対策を行います。

リスクマネジメントにも意思決定を行う者(責任者)が必要です。責任者を中心に適切な専門家を交え、リスクマネジメントの組織を作ります。このリスクマネジメントの組織がリスクアセスメント、リスクコントロール、リスクレビューを実施します。また、このリスクマネジメントの結果を関係する部署に情報共有することも重要です。情報共有することで適切な対処法を素早く見つけ、よりうまくリスクを管理し、品質の良い医薬品の製造につなげることができます。