ICH Q9 品質リスクマネジメント (1)

ICH Q9は品質リスクマネジメントについてのガイドラインです。品質リスクマネジメントの流れ、手法についての説明となっています。以前に記載した品質リスクマネジメントについての内容を詳細に記載したものになります。
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医薬品の品質維持のためには、製造等で発生するリスクを評価し、制御することが重要となります。リスクとは危害(Hazard)の発生率と重大性からなるものです。リスクの影響はステークホルダーごとに異なり、製造業者、製造販売業者、薬局・医療現場等、規制当局、患者ではそれぞれリスクの影響が異なります。どのような製造・販売ラインにおいても、患者に対するリスクを最優先としてリスク管理を実施することが重要となります。

品質リスクは製造に関するリスクの一部です。製品のライフルサイクル(開発-承認-商業生産-終売の流れを指します)を通じて、製造の知識を生かした改善により品質を維持・向上することが製薬企業にとって重要となります(ライフルサイクルマネジメントはQ12に記載された内容です)。ライフルサイクルの期間、医薬品の品質は臨床試験時のものと同等かそれ以上である必要があります。リスクマネジメントはこの品質維持・向上において有用な手法で、リスクを特定・制御することで品質を確保することに貢献します。リスクが顕現した場合においてもリスクマネジメントは有用な方法となります。

品質リスクマネジメントは全項目をすべて、常に実施することが求められているわけではありません。不完全な形での実施でもリスクの制御に有用です。ただし、完全なリスクマネジメントは品質維持のために実施が望まれるものです。規制として、完全な実施を求めることがこのガイドラインの趣旨ではないようです。

Q9ガイドラインの目的は、品質リスクマネジメントの基礎と例を示すことにあります。開発・製造のさまざまな段階(輸送や規制を含む)において、リスクマネジメントは有用であり、医薬品の形態によらず適用可能です。

品質リスクマネジメントの基礎は、患者を保護するための科学的なリスク評価・リスクに応じたマネジメント過程の2つにあります。この2つを達成するため、リスクマネジメントは4つの要素(リスクアセスメント・リスクコントロール・リスクコミュニケーション・リスクレビュー)を含みます。各段階において決定権を持つものが適切な決定を行う必要があります。品質リスクマネジメントは複数分野のチームで実施します。意思決定者は組織をまたぐようなマネジメントにおいて責任を持つ必要があります。意思決定者は実施に必要なリソースを分配し、過程における定義・実施・確認を保証します。

品質リスクマネジメントはその起案から始まります。リスクの起案には、問題の特定・危害の発生可能性/重大性・リソース/リーダーの決定・タイムライン/成果/意思決定の定義を含みます。

起案されたリスクマネジメントにおいて、まずリスクの評価(アセスメント)を実施します。リスクアセスメントでは危害が何で、どの程度起こりうることで、重大性がどれだけであるかを特定します。リスクが何かを示す(特定する)ことがまず重要です。特定においては、様々な情報(履歴・分析・意見・ステークホルダー)などを考慮します。特定したリスクについては、危害の発生率と重大性を定量的/定性的に特定します(リスク分析)。リスクの分析にはリスクマネジメントツールが有用となります。分析したリスクを最終的に評価します。リスクアセスメントにおいては、データの頑強性・不確実性が重要なパラメータとなります。頑強なデータはリスクアセスメントの結果の質を上げ、逆に不確実性は低下させます。リスクの評価においてリスクを定量的・定性的にランク付け(もしくはスコア付け)し、それ以降のリスクマネジメント時の意思決定に用います。

リスクコントロールとはリスクの制御・管理を指し、リスクの低減・許容の判断などを含むものです。リスクが重大であるほど、リスクのコントロールにはコストが掛かります。コストと利得(Benefit)を比較検討し、制御・管理戦略を決定する必要があります。許容不可能なリスクに対しては低減(Reduction)の処置を取ります。低減では危害の重大さ・発生頻度を下げるような対処を取ります。危害が検出しにくいものであれば、検出性を上げることもリスク低減の手法の一つとなります。管理後には、リスクを低減させたことで新たなリスクが発生しないことを確認する必要があります。リスクがそれほど重大ではない場合や、Benefitに対してコストが大きい場合には、リスクを許容することもできます。リスク低減によって低減したリスクの残分などは許容の対象の一つとなります。リスクの許容については合意が必要で、許容可能性はその時々によって異なります。

リスクマネジメントの各段階において、リスクマネジメント関係者などにその情報を共有することをリスクコミュニケーションと呼びます。リスクコミュニケーションはリスクマネジメントのどの段階においても適用可能です。コミュニケーションの手法の一つとして、リスクマネジメントの過程を文書とし、共有します。共有する対象者はマネジメントの関係者だけではなく、その他(規制当局、業界団体、社内の非関連部所)を含みます。コミュニケーションの結果は規制の改善などに使用することもできます。

リスクマネジメントの実施後には、そのマネジメントの結果を再確認(レビュー)する必要があります。リスクレビューはリスクマネジメント実施の知識・経験が得られた後に実施します。リスクレビューは定期的・非定期的に実施し、リスクの重大性により確認の頻度を決定します。リスクを許容した後にそのリスクについて再考する場合などもリスクレビューに含まれます。