GMP省令-逸脱の管理

GMPにおける逸脱とは、承認された指示、または設定された基準からの乖離(かいり)のことを指します。この説明ではよくわかりませんが、例えば、承認済みの製造マニュアルの手順に沿って製造しなかったとき、工程管理値の規格から外れたとき、試験マニュアル通りに試験をしなかったとき、品質規格の値から外れたときなどを指します。要は、手順からの逸脱のことをGMPでは単に逸脱と読んでいます。

逸脱の管理についてはGMP省令第15条に記載されています。GMPでは、逸脱が品質に与える影響を調べて評価し、措置を取ります。この評価・措置に関して文書で記録し、保管した上で、品質部門による確認を受けます。逸脱の情報は製造管理者に報告しないといけません。

逸脱の管理を行うために、他のGMP上の手順と同様に逸脱の管理責任者を置く必要があります。上記の逸脱に関する手順に関して責任を持ち、文書の承認を行います。

逸脱の影響を評価するため、あらかじめ逸脱の評価基準を手順として設定し、承認を受けておく必要があります。その基準によってどのような措置をとるのか、あらかじめ設定しておき、こちらも手順として文書にします。実際に逸脱が起きた場合には、これらの手順にしたがい逸脱を評価し、措置を取ります。ここでの措置とは、逸脱が起こった原因を特定した後で、その逸脱がふたたび起こらないよう、手順を見直すことを指します。

逸脱の影響には重大性があります。単なる記載ミスも逸脱ですが、品質に与える影響は少ないでしょう。一方、製造中に製品に異物を投入してしまった場合はどうでしょうか?それがガラスであれば、患者が傷つき、大きな被害が発生する可能性が高いです。このように、逸脱の重大性にしたがって、措置は異なります。記載ミスであれば訂正が必要ですし、ガラスが混入してしまった場合には市場から回収しないといけなくなります。製造管理者は逸脱の重大性に応じて適切に措置し、改善を命じる必要があります。

逸脱が発生した場合には、逸脱が起きた原因を特定し、さらに逸脱が起きることを防ぐ必要があります。このような改善を是正措置と予防措置(Corrective Actions and Preventive Actions, CAPA)と呼びます。是正措置とは逸脱の原因をなくすために手順を改めること、予防措置とは逸脱の再発を防ぐため、手順を変えることを指します。このCAPAの手順を踏むことで、逸脱の再発を防ぎ、安定した品質の医薬品が製造されることを目指します。

規格については上記しましたが、医薬品にはその製品に応じて、規格があります。例えば、ある錠剤では重さが0.1gで厚みが5mm、何時間ぐらいでこれぐらい溶け出て、主薬は0.01g含まれる…、などあらかじめ決められた値を持ちます。製造部門が行う工程管理(工程中に測定すること、たとえば錠剤の重さを測る)、品質部門が行う製品試験により、錠剤が規格に適合しているかどうかを調べます。規格内であれば問題はありませんが、そうでない場合もあります。例えば今までの製品の状態から値が離れている場合には、その状態のことをOOT(Out Of Trends)と呼びます。なぜ値が離れてしまったのか原因を特定し、改善する(CAPAを行う)必要があります。一方、完全に規格から外れてしまっている、規格外の製品のことをOOS(Out Of Specification)と呼びます。OOSの製品は一般的には市場に出荷することができず、売れません。

逸脱はGMP上重要な概念の一つですが、わかりにくいものでもあります。逸脱は一見悪いものに見えますが、逸脱を起こすことで手順の悪い部分が見えてくる、というアラームの効果があります。逸脱に対して適切にCAPAを取ることで、製品の品質を向上し、安定した生産を行うことができるようになります。