ICH S6 生物学的製剤 Part1: 前臨床での安全性評価 1

ICH S6は生物学的製剤の臨床前安全性評価についてのガイドラインです。このガイドラインではヒトでの用量増加時の方法を定め、毒性の対象器官と可逆性(毒性からの回復過程)の検証方法、臨床試験での安全性モニタリング時の検証項目を定めるとされています。ガイドラインの対象は生物学的製剤の前臨床安全性評価で、タンパク・ペプチド・DNA・細胞などの製剤を含み、ワクチンや血球成分などは含まないとされています。生物学的製剤を得るための細胞系はあらゆるタイプのものを含み、治療だけでなく、診断薬、予防薬もガイドラインの対象に含みます。

試験物質(有効成分)の規格として、コンタミ・不純物に対する安全性を考慮する必要があります。安全性評価を実施する前に、信頼性の高い精製プロセスを構築し、有効成分の性質を十分に調べておきます。開発中に製法変更する場合にはその影響を適切に評価します。

生物学的製剤でも、化学製剤と同様にin vivo/vitroでの安全性評価を行います。前臨床では、適切な動物種・年齢・生理的状況(病状を示すなど)、投与経路、使用時の製品の安全性を考慮に入れ実験系を構築します。基本的に研究はGLPに従いますが、完全なGLP準拠でなくてもよい場合があるとされています。

生物学的製剤の臨床での効果はin vitroで評価します。評価には培養細胞を使用することが有用とされています。生物学的製剤はリガンドであったり、抗原特異的な抗体であったりする場合が多く、特定の生物に対する特異性が高いものが多くなっています。動物種の選択時にはその種でその有効成分が活性を持つことが重要となります。研究ではin vivo試験を組み合わせ、ヒトでの安全性を予測します。モノクローナル抗体では抗原との反応性を調べます。

薬理活性の研究は毒性研究と合わせて実施する場合もあるようです。合わせて実施する場合にはラットや犬などを使用するとされています。上記のように、有効成分が生理活性を示す動物を選択することが重要となります。生理活性を示す動物がヒト以外に存在しない場合には、ヒトでの有効成分の対象(受容体など)を発現するような遺伝子組み換え動物の使用を検討します。有効成分と相同性の高いタンパクでの毒性検証も有用だとされています。生理活性を示す動物がおらず、組み換えも使用できない場合には14日以下の連続投与試験で毒性を検証します。

動物は両方の性のものを用います。サンプルサイズが小さすぎると毒性を検出できない可能性があるため、十分な数の動物が必要です。モニタリングの頻度、期間を工夫することである程度サンプル数の少なさはカバーできるとされています。

投与経路、用量は臨床使用時のものに近づけるようにします。動態やバイオアベイラビリティ、投与体積や投与時の濃度、処方の場所に注意が必要となります。ヒトで望まれるような薬物動態を達成できない場合には、投与経路の変更を行ってもよいとされています。

タンパク製剤は抗原となりうるため、多回投与試験で有効成分に対する抗体の増加が起こるかどうかを検証します。抗体増加と効能・毒性の関係を明らかにしておきます。モルモットなどを使用したアナフィラキシー試験(抗体-抗原反応によるショック症状の検証)も実施します。