ICH S6 生物学的製剤 Part1: 前臨床での安全性評価 2

ICH S6は生物学的製剤の臨床前安全性評価についてのガイドラインです。2では安全性薬理学についてまとめています。

安全性薬理学(Safety Pharmacology)は望まない薬理学的反応を検出する研究を指します。医薬品の機能に関連した毒性を調べ、主要な生理機能に与える影響を明らかにします。in vitroの試験として単離器官を用いた研究を使用することもあるようです。

生物学的製剤においても、動態の理解は毒性評価に有用です。生物学的製剤は免疫系に取り除かれることがあり、薬力学的応答が動態に遅れて起こることもあるようです。動態の検証には放射性ラベルのような検出性の高い方法を用いますが、放射性ラベルが活性に影響を与えないこと、放射性ラベルがタンパク質分解によりアミノ酸代謝物となることでタンパクの動態を示さなくなることの2点に注意が必要となります。生物学的製剤の定量方法はバリデーションされた1つの方法で測定し、放射性ラベルだけでなく特異的な測定法があると望ましいとされています。ヒトでの臨床研究時と動物での非臨床研究時での定量法が同じであることが理想的であるとされています。生物学的製剤は生体内で代謝・分解され、アミノ酸やペプチドになります。代謝経路の理解、タンパクの他の物質への結合やマトリックス細胞間マトリックスを指すと思われます)中のふるまいの理解も動態研究として行います。

単回投与毒性研究は全身曝露・部分暴露による毒性を理解するために有用で、多回投与研究時の用量決定にも用いられます。毒性研究は薬理学研究と兼ねることも可能で、安全性薬理学の情報を参考に実験系を構築します。多回投与研究では投与経路・投与間隔は臨床使用時を反映したものとし、動態研究を同時に行う方がよいとされています。研究対象には投与終了後の毒性からの回復過程を含めます。多回投与研究は通常1-3ヶ月の期間実施しますが、投与期間が短いものは2週間、慢性毒性研究を行う場合は6ヶ月の投与を行います。

免疫毒性研究では、生物学的製剤に対する免疫の産生を調べます。免疫産生が起こると炎症性反応を示すため、炎症性反応を一つの指標とします。投与により細胞表面の抗原に変化が起きる場合には、自己免疫が生じている可能性があるようです。

生殖・発生毒性は臨床使用時の状況、対象となる患者、半減期、免疫誘導、特異性などにより必要性・実験デザインが変わります。胚・胎児発生時の免疫毒性の検証が重要となります。

遺伝毒性研究は通常の化学製剤と同様の試験(サルモネラ菌を用いたin vitro系など)は適用できないとされています。タンパク質製剤は通常DNAや染色体とは直接干渉しないため、遺伝毒性の発現は少ないようです。遺伝毒性が懸念される場合には遺伝毒性研究の実施が必要となります。同様に発がん性研究についても化学製剤とは異なるものになります。生物学的製剤のうち、細胞増殖能に干渉するものでは発がん性研究が必要となります。in vitroの系で検証し、発がん性の懸念がある場合には動物でのin vivo実験を行います。

部分耐性(Local Tolerance、正しい訳はよくわかりません)に関しては市場出荷製品の処方で検討することとされています。