ICH Q8 Part1 医薬品の開発 (1)

ICH Q8は医薬品の開発に関するガイドラインです。CTD 3.2.P.2に記載する内容についての説明となっています。ガイドラインでは科学的アプローチ・リスクマネジメントを適用した開発について説明されています。このガイドラインでは承認申請だけでなく、ライフサイクルマネジメントからの知識を利用することを含めた記載となっています(ライフサイクルマネジメントはQ12の内容です)。CTD 3.2.P.2の記載を通じて、規制当局側に製品等の包括的な理解・情報を提供することを目的としています。CTD 3.2.P.2の記載に応じて、規制当局が受け入れることができる承認事項を柔軟にすることもこのガイドラインの目的のようです。

ガイドラインの対象はCTD(ICH M4)のModule3、Section 3.2.P.2に記載すべきこととなっています。臨床研究中の医薬品についてはこのガイドラインの対象ではありませんが、(おそらく後々の開発での記載を)考慮すべきであるとされています。Section 3.2.P.2は品質に関わるCTDのうち、開発に関するものを記載することになっています。記載事項は6項目で、医薬品のコンポーネント、製剤、製造法開発、包装、微生物学的特性、溶媒・投与デバイスの適合性とされています。

医薬品開発では品質・製造方法を設定し、医薬品に必要な要件を満たすことが求められています。デザインスペース・規格・工程管理を開発時に設定し、これらのデザインから製品の品質を作り上げる(Quality by Design、QbD)ことが求められます。設定には品質リスクマネジメントを適用することとされています(品質リスクマネジメントはQ9の内容)。その医薬品のライフサイクル中には処方や工程の変更を利用し、恒常的にデザインを良くしていくことが望ましいとされています。

デザインスペースとは、複数の入力変数に対し、品質を保証可能な多次元空間上の範囲のことを指します。処方特性や工程パラメータ(入力変数)を振って開発を行い、必要な品質を保証できる入力変数の範囲を多変量的に決定します。この入力変数の範囲のことをデザインスペースとします。デザインスペースに収まる入力変数の組み合わせであれば、入力変数が変化しても変更としては扱われません。一方、デザインスペースを外れるような変化は変更申請の対象となります。デザインスペースは申請者が提案し、規制当局が承認することによって利用可能となります。Section 3.2.P.2にはデザインスペースを説明するのに必要十分な情報を記載します。品質を保つ上での処方の性質・重要工程・パラメータ等やその変動を開発により決定し、制御(コントロール)する方法を正当化します。工程や原料の理解のための開発・研究内容をSection 3.2.P.2に含むことは認められているようです。このような工程・原料の理解がデザインスペースの提案には必要です。申請時に製品理解に関する十分な情報が提供された場合には、規制上のアプローチを柔軟に取ることができます。

申請情報には実験デザインの構築、PAT(Process analysis technology、工程内分析)が有用です。同様に品質リスクマネジメントにおいて重要性質・パラメータ等を検証しておくことも有用です。これらの検証は科学的であることが重要となります。

製剤の構成成分のうち、有効成分の性質は製品の品質・製造・効能に大きな影響を及ぼします。このため、有効成分の物理化学的・生物学的性質を抑えておくことが開発において重要となります。有効成分の性質特定にはICH Q6(規格)の記載を参考とします。有効成分と添加剤の相性(化学反応性などを指すと思われます)についての検証も重要です。

有効成分と同様に、添加剤も製剤の品質・製造・効能に大きな影響を及ぼします。製剤の製造に使用するすべての添加剤は検証を必要とします。有効成分との間だけではなく、添加剤間の相性についても検証が必要です。添加剤のうち、抗酸化・抗菌・膜透過性向上・崩壊性向上・溶出制御性などの効果を持つものに関しては、医薬品の有効期限までその効果が持続することを検証しておきます。添加剤の使用理由や安全性についてはCTDの別の章(3.2.P.5.6や3.2.P.4.6)に記載します。

Section 3.2.P.2には剤形・処方の開発情報の要約を記載します。記載には使用法や投与経路などを含みます。実験デザインを利用した開発検証情報が有用となります。開発の初期コンセプトから最終処方までの過程を説明し、添加剤の使用範囲(量?)を理由づけし、正当化します。臨床安全・効能・バイオアベイラビリティ(生物利用性)・同等性等の結果(臨床試験結果の要約だと思われます)も記載します。臨床試験時の製剤(治験薬)と製品の処方に差がある場合には同等であることを説明し、変更を正当化します。物理化学的性質(溶出性など)と臨床試験結果(血中濃度)の対応についての説明、デザイン上の特徴の説明も必要となります。

製剤の有効成分・処方量をあらかじめ多くしておく場合(増仕込、Overages)についても説明し、安全性・効能への影響から増仕込の量、理由を説明します。有効期限を伸ばすための増仕込(分解しやすいAPIを足しておくような場合を指していると思われます)は好ましくないとされています。

製剤の物理化学的・生物学的性質が安全性・効果・製造に与える影響も検証し、記載します。この内容にはAPIや添加剤の物理的特性(溶解性・粒子径・pHなど)も含みます。物理化学的特性にしたがい、試験の選択理由などを説明します。