ICH S5 生殖・発生毒性研究 1

ICH S5は非臨床研究における生殖・発生毒性研究(DART: Developmental and Reproductive toxicity)についてのガイドラインです。S4は非常に短いガイドラインで、2ページしかありませんが、このS5は長大なガイドラインで110ページ(ほとんどは毒性のある物質のリストです)もあります。11章仕立てで、9章までの学習内容を書いていく予定です。

非臨床でのDART研究では、少なくとも動物の一生分(生殖ー受胎ー胚発生ー胎児成長ー出産ー出産後乳幼児期)の期間の観察を行います。急性だけではなく、長期で生じる危害(おそらく胚発生を原因とする成体での危害のようなものを想定していると思われます)を検出することが必要となります。検証の対象となる時期は、生殖機能、着床や妊娠に関する機能、着床後の胚発生・胎児の期間形成、胎児の成長、出産から乳幼児期の成長、乳幼児期から思春期までの成長となり、ほぼ動物の一生を網羅することになります。ガイドラインの対象は生物学的製剤やワクチンを含むすべての医薬品で、製剤に使用する添加物も含みます。

生殖毒性においては、3つのin vivo研究での検証を実施します。3つに当たるのは受胎能力と胚発生研究(FEED: Fertility and Early Embryonic Development)、胚発生と胎児成長の研究(EFD: Embryo-Fetal Development)、出産前後の発生研究(PPND: Pre- and Postnatal Development)です。生殖毒性研究では対象患者数と使用時の状況、処方と投与経路、毒性・動態・薬力学等、薬理の対象となる生物学的機能などを考慮して試験のデザインを構築します。対象患者や適用によってDART試験の範囲は変化します。閉経後・思春期前の小児・妊娠の可能性のない患者などを対象とする場合にはDARTのリスクは非常に低くなるため、全実施を必要としない場合もあるようです。薬理学が生殖能と干渉する可能性についても検証します。類似の薬効を持つ医薬品などで生殖脳と干渉する場合(早産を促したりする場合)には生殖能に対する毒性を正確に評価できなくなるため、適切な実験系の構築が必要となります。生殖器官に毒性を持つ物質においても同様の問題が生じます。

研究を実施する時期はM3、S6、S9に従い決定するとされています。患者を用いた臨床試験での安全性を十分に確保できるよう、適切な時期に研究を実施・完了させます。妊娠が薬物の動態に影響を与える場合(胎児への濃縮などを指すと思われます)には胚や胎児に移行する薬物量の特定が必要となります。移行量から胚発生・器官形成に危害が発生する可能性を評価します。乳幼児では母乳を通じた暴露が発生するため、母乳の薬物濃度も必要に応じて特定します。