ICH S3A 毒物動態学: 全身曝露研究 1

ICH S3Aは毒物動態学(Toxicokinetics)、薬物の体内動態についてのガイドラインです。動態の研究は一連の毒性研究の一部として、非臨床研究で実施します。薬物動態は毒性の説明に利用し、ヒト使用時のリスクを評価するのに用います。薬物動態研究では、動物での全身曝露における用量と時間、薬物濃度の関係を示します。求めるパラメータはAUCやCmax、Ctime(おそらく投与後一定時間における血中濃度だと思われます)で、発がん性、遺伝毒性、繁殖毒性が見られた際にその理解に繋がります。薬物動態研究はGLPに従い実施し、種・グループ・性別などによる差を評価します。通常は血中濃度の変化を、必要であれば組織での薬物濃度を測定します。一連の動態研究は毒性評価に有用な情報をもたらします。

動態での測定の点数は測定による動物への生理的影響がない程度に、十分に高頻度に実施するとされています。毒性研究の評価を考慮し、曝露評価に必要十分な測定点数を取ります。暴露検証の範囲(サイズ)としては、リスクを考慮して個体数と用量グループを決定することとされています。血中濃度の測定を行うため、血液を取っても生理的影響が小さいサイズの大きい動物で動態を調べます。小さい動物を使用した場合には他の種での実施が必要となるようです。オス/メス両方の性別で実施し、必要とする個体数はできるだけ少なくします。

動態は様々な要因による変化するため、場合によっては理解が難しくなります。理解を複雑にする要因として、タンパク質との結合、吸収、受容体結合、代謝などが種により異なること、毒理・薬理・免疫的特性も異なることなどがあげられています。

薬物の投与経路により、毒性の発現は変化します。経口剤を注射剤として投与する場合などには安全性への配慮が必要となります。投与経路の変更等、必要であれば追加の毒性研究を実施することになります。薬物そのものだけでなく、薬物の代謝物の動態が毒性や薬理に重要である場合もあります。プロドラッグ(体内で代謝された後で有効成分として働くもの)や、分解産物が薬理・毒理を保つ場合、代謝が速く、代謝物以外を測定することができない場合などには動態研究において代謝物動態を調べることになります。動態研究結果には高精度な統計は必要でないとされています。群間差、個体間差を特定し、平均値・中央値・分散などを測定します。正当な理由があればデータの変換を行うこともできます。

分析法の開発のため、薬物動態の結果を用いるとされています。分析法には対象とする薬物に対する特異性・正確性・精度が必要です。分析対象となるサンプル(血液や組織)を選択しますが、このサンプルの種類は臨床試験時と同じものであることが望ましいとされています。ラセミ体、光学異性体の測定時にはどの異性体を測定するのか、対象の特定が必要です。

動態の結果をまとめ、毒性との関係を説明し、申請時には報告する形になるようです。報告では分析法・分析方法・サンプルの種類など、必要な情報を提供するよう記載されています。