ICH Q5D 生物学的製剤の製造に用いる細胞の由来と評価

ICH Q5Dは生物学的製剤の製造に用いる細胞の由来と評価についてのガイドラインです。生物学的製剤の製造に用いる細胞はCell substrateと呼ばれ、ヒト・動物・微生物細胞がその製造に用いられています。Cell substrateにはコンタミネーションのリスクが常に発生し得ます。組み換えDNAを用いる製剤では、コンストラクトの性質や維持も製品品質に影響を与えうる重要な要素となります。

ガイドラインの対象はCell bankを持つCell substrateです。Cell bankは基本的には冷凍保管されると思われるもので、MCB/WCBを指します。in vivo(ヒト中)で使用される製剤の製造に用いるCell substrateが対象となり、in vitro(試験管などで診断用に試験を行うものを指すと思われる)の細胞に関しては対象外です。抗生物質アミノ酸・炭水化物の生産に用いられるものは対象外、遺伝子治療用細胞、ワクチンは対象となります。

申請書類には、細胞の起源やその培養履歴についてのきさいが 必要となります。ヒト細胞の場合には起源、起源を示す文献、ドナーとなった組織・ドナーの民族・年齢・性別・生理的条件なども示します。特にドナーの健康状態や医療履歴は重要な要素となるようです。ヒト線維芽細胞ではドナーの年齢がCell substrateの寿命に影響を与えるため、ドナーの年齢が重要な要素となります。動物では種・系統・ドナーの飼育条件・生育地域、ドナーとなった組織、ドナーの性別・年齢・病理的特性・生理的特性を示します。微生物では種・系統・遺伝的・生理的性質に加え、病原性・毒性物質生産性についての記載が必要です。

細胞の培養履歴についても記載が必要となります。記載の内容は細胞の単離法、培養の方法、細胞系統の樹立法や、(組み換えDNAを用いるものでは)遺伝的操作や組み換え体の選抜法、内的・外的物質に対する応答試験の結果などになります。動物細胞では一般的に継代培養が必要となるため、いつ、どの程度の希釈率で継代したのかを記録します。細胞の生成(培養?)についても説明を必要とします。培養では培養液の組成が重要な要素となります。培養液に感染性の混入が起こらないことについて説明を必要とします。調製法・試験結果・品質保証の情報を記載に含めます。製造に使用する細胞については母集団細胞の選抜が重要な工程と成るようです。母集団細胞とは製造に使用する細胞の元となるもので、公的・私企業のセルバンクから取り寄せるようです。製造に使用する細胞の生成とは、母集団細胞に対して細胞融合・形質転換・選抜などを実施することを指します。この生成過程を経て、細胞は有効成分を生産するようになります。生成過程を記録・記載することで、履歴を把握することが可能となります。

セルバンクにはMCB/WCBの2種類があります。セルバンクについての記載は、製造開始時の細胞の特性を理解するために有用となります。セルバンクの使用や更新の方針はあらかじめ示しておきます。生成過程で得られた細胞からMCBを作成し、製造用にWCBを作成します。製造数量が少ない場合にはMCBだけを作成する場合もあるようです。微生物においても同様にMCBを作成します。微生物では動物細胞と比較して簡便に再現性良く形質転換を行うことができるため、形質転換用細胞、プラスミドと共にMCBを維持・保存します。セルバンクの維持のためには、コンタミネーションをできるだけ防ぐ必要があります。セルバンクが失われた場合には有効成分の生産が滞る・停止する可能性があるため、損失を防ぐ措置が重要となります。セルバンクにおいてはMCBごとに同定・純度、製品ごとに最適性を検査します。セルバンクの細胞の腫瘍形成能や染色体構造などを調べることもあります。ウイルスに対する安全性の評価も重要です。組み換えDNAを持つセルバンクでは、コンストラクトのDNA配列確認や、製品のアミノ酸配列の確認も必要となります。

同定試験とは、細胞がどのようなものであるのか生理的・遺伝学的に同定することです。動物細胞は基層に貼り付いて成長・分裂するため、その形態から同定が可能です。イソ酵素(isoenzyme)解析が同定方法として一般的に用いられるようです。染色体解析・基層に対する特異性(基層によって貼り付く/貼り付かない、分裂する/分裂しない等)、遺伝的マーカーなども同定の参考となります。微生物の同定試験では抗生物質を含む選択培地での培養が用いられます。大腸菌などではファージに対する感染性や、発現物の解析から同定することもできます。

純度試験とは、コンタミネーションの確認のための試験を指します。MCB/WCBでは包装ごとに微生物限度試験を必要とします。マイコプラズマやウイルスの混入も調べます。セルバンク間での交差汚染(クロスコンタミネーション)を防ぐことがセルバンクの維持に重要です。微生物ではコンタミネーションの経路が重要となります。基本的には文献に従った方法で微生物の混入の検証を行います。

製造に使用する細胞では、製造時と保管時の安定性を考慮します。製造時安定性は部分的な培養と細胞使用期限前の細胞で、生成されるタンパク質やコンストラクトのDNA配列が保たれていることを確認します。形態・増殖の様子、遺伝的マーカーなどから調べる場合もあるようです。酸素やグルコースの消費量・アンモニアや乳糖生成量も重要な指標となります。保管時の安定性は臨床研究時に検証し、保管からの回復時生存率、保管後の生産能力などを検証します。ヒトや動物などの二倍体細胞では安定性の解析として、染色体構造解析や腫瘍形成能解析も行います。