ICH Q5A 生物学的製剤のウイルスに対する安全性の評価1

ICH Q5はQ5AーQ5Eの5つからなる、生物学的製剤の品質に関するガイドラインです。Q5Aは生物学的製剤のウイルス安全性の評価法のガイドラインです。ヒト、もしくは動物細胞で製造する未承認の新規有効成分を対象としています。BSEスクレイピーなど、プリオン病などへの対応はQ5Aの対象外です。

ガイドラインの対象となる製剤は細胞由来のもののうち、ワクチンとベクターを除いたものになります。インターフェロンモノクローナル抗体、組み換えDNA由来の抗体などが対象有効成分の例となります。

ウイルスの混入は細胞系統(Cell line)、製造中に発生します。ウイルスが細胞系統に混入した例はこれまでに無いようですが、評価は必要となります。ウイルス混入の制御は、細胞系統・原料への混入確認、ウイルス除去工程の能力検証、製造工程での混入確認の3つのアプローチをとります。一つだけを選択した場合には確実に除去を検証できません。試験による確認と除去・不活性化を組み合わせた方法でウイルス混入を制御し、可能性を取り除きます。

ウイルス混入源として、Master Cell Bankへの混入、外部からのウイルスの混入の2系統があります。Master Cell Bankはその一部を製造用細胞バンク(Working Cell Bank)として使用する有効成分生産能力を持つ細胞バンク(一般的には冷凍保存されているようです)で、この細胞に混入していると製品にウイルスが直接混入することになります。

細胞系統(Cell line)には、Master Cell Bank(MCB)、Working Cell Bank、生産中の細胞の3種があります。それぞれにウイルス混入の可能性を評価します。MCBでは内生・非内生のウイルスを調べる必要があります。ヒト/非ヒトの融合細胞では、感染の可能性があるウイルスについてすべて調べます。非内生のウイルスはin vitro/in vivoの接種試験、マウスの抗体産生などで検査し、調べます。Working Cell Bankでは、非内生、生産時のウイルスを調べます。生産中の細胞(生産終了前の細胞)では、細胞の内生ウイルスの試験を実施します。非内生のウイルスに関してはMCBと同様のin vitro/in vivoの接種試験を行うようです。非内生のウイルスが検出された場合には、混入経路の特定が必要となります。

ウイルスの種類にしたがい、試験の項目が決められています。レトロウイルス検出の試験では、電子顕微鏡での観察、逆転写酵素などを検出することでウイルスの存在を調べます。上記のin vitro試験では、培養細胞に検体を与え、ウイルスによる影響を検証するものです。ウイルスに反応して培養細胞が細胞変性・吸着性を示すことでウイルスの検出を行います。in vivo試験は動物に検体を与えて、ウイルスの増加、病症の発生が起こらないことを確認します。抗体産生試験では、検体をげっ歯類(マウス、ラット、ハムスター)に与えたときに、抗体の生産が増加しないことを確認する試験です。

細胞周辺の(おそらく有効成分を含む)液のことをunprocessed bulkと呼びます。Unprocessed bulkは未精製の有効成分に当たるものだと思われ、ウイルス検査の実施には最適であるとされています。細胞や培養液上清などでもウイルスの確認試験を行います。ウイルス検証に関しては3ロットのパイロットスケール・商用スケール品で行い、(おそらく)申請書類に情報を記載することになると思われます。

ウイルスをフィルターなどで除去、もしくは不活性化剤で感染性をなくす処理を行うことでウイルスがない状態(ウイルスクリアランス)を作り出すことができます。ウイルスの除去・不活性化の工程では、ウイルスが十分に除去・不活性化されていることをモデルウイルスで確かめておきます。ウイルスの不活性化は時間依存的に起こるため、ウイルス不活性化工程のウイルス不活性化時間依存性を検証します。モデルウイルス以外のウイルスでは除去・不活性化の効率が異なるため、留意、もしくは検証が必要となります。