日本薬局方-物理的試験法 2.01 液体クロマトグラフィー

日本薬局方には、一般試験法という医薬品一般に用いられる品質試験について記載した文があります。一般試験法には大項目が8つあり、化学的試験法から始まります。しかし、この化学的試験法は物理的試験法を後方参照しており、物理的試験法を理解せずに化学的試験法を理解することができないようになっています。したがって、まず物理的試験法を勉強し、その後に他の試験法を学ぶ方が理解しやすくなります。

物理的試験法は、クロマトグラフィー、分光学的試験法、その他に大きく分類されます。これらのうち、クロマトグラフィー試験法として液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、タンパク質のアミノ酸分析法の4種類が登録されています。クロマトグラフィーとは、化学物質の混合物を分離し、個別の化学物質の量を測定する方法を指します。

液体クロマトグラフィーは、溶液中の物質を分離し、測定する方法のことです。溶液試料を液体の移動相と共に固定相に流し、固定相で化学物質を分離し、分離された化学物質を検出器で検出・定量します。液体クロマトグラフィーは、古典的にはプラスチックのカラム(筒状のもの)と固定相(シリカゲル)を用いて、液体を上から注入するものでしたが、現在はHPLC(High Performance Liquid Chromatography)という、ポンプで圧力をかけ、固定層を詰めた金属製カラムを通すものが一般的です。移動相は試料を含み、固定相内を移動する液体のことです。普通は有機溶媒、もしくは有機溶媒と水の混合物を用います。化学物質の分離を良くするために、グラジエントと呼ばれる、徐々に移動相の組成が変わっていくようなものもよく用いられます。固定相は表面を化学処理した、多孔質な物質で、シリカゲルや合成樹脂の粒子を用います。HPLCではこの固定相をステンレス管に詰め、カラムを作成します。カラム内に移動相を流すことで、化学物質を分離します。化学物質は分子の大きさ・極性により、固定相内での移動速度が変わります。この移動速度の差を利用して化学物質を分離します。移動相・固定相は化学物質によって選びますが、日局記載の医薬品では試験の項目に指定があります。検出器は物質の量を測定する計器のことで、様々な種類があります。どの計器を用いても、ほぼ似たチャートが出力として得られます。

物質の量は、チャートから計算します。計算の方法は2種類あり、1つは内標準法、もうひとつは絶対検量線法です。どちらの場合においても、まずチャートから情報を取り出す必要があります。クロマトグラフィーのチャートは横軸に保持時間、縦軸に信号の強さを示したものです。このうち、保持時間とは、カラムに投入して、その物質がカラムから出てくるまでの時間を指します。物質により固定相内の移動速度が異なるので、保持時間も異なります。保持時間と信号の強さのチャートから、物質に対応した山形のピークが得られます。このピークを物質量に換算しますが、換算時のピークの評価方法は2つあります。1つはピークの高さを測定値とする方法、もう一つはピークの山の面積を測定値とする方法です。一般的には後者を用います。

HPLCが適切な性能で稼働しているかどうか確認することを、システムの適合性と呼びます。システムの適合性では、検出の確認、システムの性能(物質の分離ができていること)、システムの再現性を確認します。液体クロマトグラフィーの利用時には様々な用語が用いられます。SN比はシグナル・ノイズ比のことで、ノイズに対するピークの高さの比のことです。シンメトリー係数はピークの山が左右対称であるかどうかを示す係数、相対標準偏差は値のばらつきを示すもの、分離係数は2つのピークの保持時間の比のこと、分離度はピークの分離の良さをしめす値、ピークバレー比は完全分離していないピークの分離についての指標、理論段数はピークの幅を示す値です。複雑ですが、日局記載の医薬品の多くではこれらの値の規格が記載されており、いずれも試験法の理解に必要な用語です。