ICH M6 遺伝子治療

ICH M6は遺伝子治療(Gene therapy)に関するガイドラインです。遺伝子治療に用いられるウイルスや遺伝子治療ベクターの拡散・伝染について、非臨床・臨床研究において検証する場合について記載されています。2011年にStep2となった後、ICHの正式なガイドラインからは外され、Appendixとして残っています。ガイドライン的なものはAppendix 1で、2はベクター拡散に関する科学論文となっています。

Appendix 1では、Virus & Vector Shedding(ウイルスとベクターの拡散)について記載されています。ウイルスやベクターを治療用に用いた後、そのベクターが分泌物や排泄物を通じて拡散する懸念について、非臨床や臨床試験で検証する方法についての推奨事項がAppendix 1の中身になっています。

ウイルスやベクターの生物学的性質として、そのウイルスやベクターの生物源が重要となるとされています。通常は増殖しないものを用いますが、ウイルスやベクターによっては増殖する可能性があるため、患者内で増殖が起こらないことを確認する必要があります。また、患者内で遺伝的変異を起こす可能性もあります。一度生体内に取り込まれたベクターがいつまで維持されるのかも、体外への排出を評価する上で重要となります。

分析方法として、特異性・感受性が高く、繰り返し精度の高いものを用いるとされており、測定法は定量的なものを用います。通常はqPCR(定量PCR)と感染性検出法(Infectivity analysis、in vitroで感染性を調べる方法)を用います。第一選択は感染性検出法となります。非臨床試験では、ベクターやウイルスの分泌や排出を検討します。動物種により結果がヒトとは異なりうるため、注意が必要となります。用量・用法は実臨床での最大用量とし、サンプリング頻度は検体ごとに決定します。特に体内に注入後の初期のサンプリング頻度を高くするとされています。研究の参考として、ウイルスやベクターの生物源(野生型株)を参照するとよいようです。サンプル量などは分析法に依存します。非臨床試験の結果を持って、臨床研究のデザインを考慮します。伝染性の可能性がある場合には、Cage mate伝染研究(ケージに複数の動物を飼育し、相互の感染を調べる方法)を用いるようです。

臨床研究では、野生型株の性質、非臨床試験の結果、用量等を考慮した上でデザインを構築します。臨床研究の実施時期は規制当局により異なります。ヒトの体内でベクターの増殖が見られる場合には、比較的長期のサンプリングが必要となります。投与後の免疫応答性やベクター量を検証し、ベクターが検出可能な間は研究を継続します。ヒトでの伝染可能性や伝染するベクター自体を特定することが重要です。