ICH S9 抗ガン剤の非臨床研究 1

ICH S9は抗ガン剤の非臨床研究に関するガイドラインです。一般的な医薬品と抗ガン剤での研究の違いについて記載されています。

抗ガン剤では、治療法の少ない、進行した症例に対する効果的な新薬の迅速な提供が望まれています。リスクをある程度許容し、承認申請までのステップを簡潔にしつつ、副作用のリスクをコントロールするための非臨床研究が求められます。抗ガン剤の非臨床研究では、薬理学的応答の特定、ヒト暴露時の安全性を担保した初回投与量の設定、毒性プロファイルの理解が目的となります。抗ガン剤の臨床試験では、対象となる患者が末期がん患者となりやすいため、他の医薬品と異なる点が多くなります。

ガイドラインの対象は低分子、生物学的製剤の両方となります。現行の治療では治療効果が薄い患者を対象とし、第1相試験、開発時の安全性を評価することを目的としています。健常者での臨床使用は対象とはなりません。

薬理学的研究として、第1相臨床試験の前に抗ガン性、薬理メカニズムの特定を非臨床研究で行います。ガンは対象となる特定のガン以外のものであってもよいとされています。検証により、投与スケジュールや、用量を増加させる時のスキームを確立します。同様に初期投与量と臨床応答のバイオマーカーを特定します。

安全性薬理学研究として、臨床試験前に生命維持に必要な器官への影響を検証します。通常の毒性研究の一環として実施してもよいようです。末期がん患者を対象とする医薬品では、単独での安全性薬理学研究は不要とされていますが、副作用のリスクが大きい場合には別途S7に従い実施することとされているようです。

第1相臨床試験前に、薬物動態の研究も実施します。第1相前の動態研究では、Cmax、AUC、半減期などの基本的なパラメータの特定のみが求められます。吸収・代謝等の研究は臨床開発時に同時並行で実施するとされています。

一般毒性研究も第1相臨床試験前に実施し、情報を収集します。最大耐性用量(MTD)、用量を制限する毒性(DLT)を評価します。NOAELやNOEL(副作用がないような用量)の評価は第1相前に実施する必要はありません。臨床使用でのスケジュールに応じた毒性評価を行い、毒性からの回復過程も検証します。

生殖毒性研究は、妊娠可能性のある患者を対象とする場合には必要となります。末期がん患者の場合は考慮しなくてよいとされています。遺伝毒性があることがわかっている薬物、増殖細胞を対象とするものでも不要とされています。生殖毒性研究は承認申請前までに完了させます。

遺伝毒性研究は進行したガン患者を対象とする場合には臨床試験前の実施は必須ではないとされています。遺伝毒性の検証は販売開始前までに完了させます。in vitroで陽性であれば、in vivoで陰性であっても安全性の担保とはならないようです。発がん性についてはS1Aに従いますが、進行した患者では保証を必要としないようです。免疫毒性研究は一般的な免疫毒性研究の範囲で検証します。光安全性については第1相臨床試験前に初期検証を終え、リスクがあれば保護措置を講じます。