ICH Q1A 新規有効成分(原薬)の安定性試験

ICH Q1Aは安定性試験実施に関するガイドラインです。Q1Aは1992年にStep2に移行、ガイドライン策定が開始され、1993年に発行されたものです新規有効成分(新規原薬)もしくはそれを使用した新規製剤の承認申請のための安定性試験がガイドラインの対象となります。承認済み有効成分を用いた新剤形の安定性試験はQ1C、生物学的製剤の安定性試験はQ5Cに記載されており、Q1Aの対象ではありません。このスライドでは新規有効成分の安定性試験について述べます。

安定性試験とは時間・温度・湿度・光が医薬品の品質に与える影響を調べるものです。安定性試験の結果から、有効期限・保管条件を決定します。Q1Aでは、気候区分IとII(日本、EUアメリカ)の環境で保管することを考慮した安定性試験についての説明になっています。気候区分IIIとIV(高温乾燥、高温多湿の環境)での安定性試験についてはQ1Fで対応することになっています。

原薬の安定性試験実施において、Stress testing(過酷な環境での原薬品質変化の調査)を行うことは、その原薬の分解反応経路、安定性を理解する上で重要となります。同時に安定性評価の解析法(分析法)をバリデートすることができます。ストレスの条件として温度と湿度を変更し、試験します。必要であれば酸化ストレス、光ストレス条件下での品質変化も調査します。原薬の溶液について、pH、光による品質変化も同時に検証します。

安定性試験は最小で3つのロット(Batch)を対象として実施する必要があります。安定性試験に用いるロットの合成経路は最終製品と同等で、ロットのサイズはパイロットスケール以上である必要があります。安定性試験中の原薬は実際の最終製法の保管、輸送に用いるものと同じものを用います。

原薬の安定性試験には出荷可能である条件として規格が必要となります。規格設定とその品質試験項目についてはQ6、分解産物の規格についてはQ3Aで規定されています。安定性試験では保管時の品質変化、安全性・効能への影響を調べます。試験には物理的・化学的・生物学/微生物学的観点からの試験を含む必要があります。分析方法はバリデートされたものを用います。分析方法の設定に従うため、試験の回数やサンプル数は試験の種類により異なります。

安定性試験の条件は3種類存在し、それぞれ試験の頻度、期間が異なります。標準的な環境で実施する安定性試験である長期試験では、初年度に3ヶ月おき、二年目は6ヶ月ごと、それ以降は12ヶ月おきに品質試験を実施します。高温・高湿度環境で実施する安定性試験である加速試験では、最初と最後を含む最低3点で品質試験を実施します。加速試験は6ヶ月まで実施することが推奨されています。中間的試験は長期試験と加速試験の中間的な条件で実施する試験です。中間的試験では最初と最後を含む最低4点で品質試験を実施し、12ヶ月まで試験を継続することが推奨されています。

各安定性試験の条件については、常温保存、冷蔵保存、冷凍保存する製品により異なります。常温保存のときは長期試験を25℃/60%RH、加速試験を40℃/75%RH、中間的試験を30℃/65%RHで実施するのが基本となります。中間的試験は輸送時安定性について検証するとき、長期の6Mで規格外の結果を得た場合などに実施することになっています。冷蔵保存のときは長期試験を5℃、加速試験を25℃/60%RHで実施します。加速試験で変化があった場合には、原薬のリテスト期間(Retest period、品質試験を再度実施せずに製剤の製造に利用できる期間のこと、リテスト期間を過ぎた場合には品質試験を再度実施し、品質に問題がなければ再度製造に使用できる)を長期試験の結果で決定します。冷凍保存の場合は-20℃での試験を実施します。冷凍保存する製剤の使用時安定性を担保するため、5℃や25℃条件での影響を調べておく必要があります。

承認申請時にリテスト期間までの長期安定性試験が終了していないときには、安定性試験を実施して結果を報告する旨を誓約(コミットメント、Commitment)しておく必要があります。コミットメントは3ロット安定性が確保できていない場合、製造スケールでの安定性試験結果がない場合にも必要です。

原薬の安定性評価では、原薬の分解や化学変化等が十分に小さいことを示す必要があります。変化が十分に小さい場合には正当な(規定された)統計解析は不要です。片側の95%信頼区間が規格内であれば品質に問題がなく、規格に適合しているとしてよいことになっています。原薬の分解が起こる場合には分解過程の線形回帰が必要です。回帰により将来的な原薬の減少を予測する(外挿)ことは正当な理由を説明できない場合には行いません(別のガイドラインで外挿については扱います)。

原薬の保管条件は製品のラベルに記載する必要があります。ラベルの記載方法は現地の規制にしたがいます。保管条件やリテスト期間は安定性試験結果に基づき決定します。保管条件には曖昧な表現(Ambient condition、Room temperatureなど)の使用を避けます。

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