日本薬局方-一般試験法 2.21 核磁気共鳴スペクトル測定法

核磁気共鳴はNMR(Nuclear Magnetic Resonance)と呼ばれる現象で、0でない各スピン量子数、磁気双極子モーメントを持つ原子の核の状態を調べる方法です。このような原子に磁場をかけると、特定の周波数の電磁波(正確には光の一種ではなく、光が電磁波の一種)を吸収する性質を持ちます。この性質を核磁気共鳴と呼びます。具体的には原子番号・質量数が奇数の原子が核磁気共鳴を起こします。このような原子核は複数ありますが、主要な同位体として自然界に存在するものとしては、水素・フッ素・リンが当たります。しかし、NMRで対象となる原子核はほとんどの場合水素です。したがって、NMRでは水素の状態を主に測定することになります。

核磁気共鳴スペクトルは、この電磁波の吸収を波長ごとに測定して得られる吸収曲線のことです。共鳴が起こる波長は外部磁場とその水素の電子状態に依存します。電磁波を吸収することで、核のエネルギー準位は高くなります。高くなったエネルギー準位は主に熱として発散され、ゆっくりとエネルギーが放出されます。この放出にかかる時間を緩和時間と呼びます。分子中では、水素のまわりの電子の状態は、周辺の原子からの電子による影響を受けます。この電子により、外部磁場は一部遮蔽されます。遮蔽されると、磁場の強さが変化しますので、それにしたがい共鳴する電磁波の波長も変化します。この変化を化学シフトと呼びます。化学シフトは水素周辺の電子の状態を反映していますので、化学シフトを測定することで水素周辺の状態を把握することができます。分子内に極性があり、電子的な偏りがある場合にはシグナルの分裂も起きます。この分裂の数を多重度、分裂したときのシフトの大きさをスピン-スピン結合定数と呼びます。

NMRには2種類の装置があります。1つはパルスフーリエ変換NMRで、全波長の電磁波を一度に短時間宛、FIDを観測後、フーリエ変換によりスペクトルを求める方法です。もう一つは連続波NMRで、電磁波の波長を変えながら電磁波の吸収を測定する方法です。装置を用いる場合には、まず使用前の調整を行い、感度と分解能を最適化します。その後、試料溶液のNMRを測定します。溶液ですので、液体NMRと呼ばれる方法を用います。溶媒に普通の水や有機溶媒を用いると、水素が多数含まれるためにNMR測定は難しくなります。このため、質量数が2の重水素を用いた溶媒を用います。

結果の確認では、測定した物質が目的の物質と同一であるかどうかを判断します。確認の方法はスペクトルが日局に定められたものと一致することを確認するか、もしくは標準品のスペクトルと一致することを確認することで行います。NMRでは量的な特定はそれほど重要視されないようです(このあたり、よく理解していないのでいずれ勉強します)。

NMRには次元というものがあり、通常の1次元NMRの他に2次元、3-4次元NMRと言われるものが存在します。水素を測定対象とするときには1次元を用い、質量数13の炭素(安定同位体、主な同位体は質量数12)を測定する場合には1・2次元NMRを用いるようです。測定法にも様々な種類があり、日局にも記載されていますが、専門的な知識を必要とするようです(これについてもいずれ勉強し、解説を作りたいと思います)。