日本薬局方-一般試験法 2.62 質量分析法

質量分析とは、イオンの電荷と質量の比を利用して、物質を分離・検出する方法です。一般的にMS(Mass Spectrometry)と呼ばれます。イオンの電荷(z)と質量(m)の比(m/z)により物質を分離し、検出するため、m/zと信号の強さのスペクトルを得ることができます。MSにはさまざまな種類があり、分離をよくするためMS分離を2回行う方法(MS/MS)も多用されます。原子の質量により分離を行うため、同位体の分離なども行うことができます。

質量分析質量分析計を用いて行います。質量分析計は試料を機器に打ち込む導入部、試料をイオン化するイオン化部、質量と電荷で分離する分離部、検出部からなります。試料導入部はイオン化部まで試料を運ぶ部分で、直接注入法と直接導入法があります。前段階の分離を液体クロマトグラフィーなどで行い、分離後の試料をMSに導入することもあります。

イオン化部では、試料をイオン化し、電荷を与えます。方法はたくさんあります。試料を気化し、熱電子でイオン化する方法(電子イオン化)や、イオン化した物質から電荷を受けることで試料をイオン化する方法(化学イオン化法)、液体試料を高電圧印加したキャピラリーからスプレーする方法(エレクトロスプレーイオン化)などが一般的なようです。

質量分析部では、イオンをm/zに基づいて分離します。この分離部にも様々な種類があります。4重極型分離部では、直流と交流の電極を4本平行に配置し、その中をイオンが移動する方法です。電極にある電荷をかけたとき、特定のm/zを持つイオンのみが直進し、検出部まで到達できルノに対して、その他のm/zのイオンは移動中に曲がり、検出部に到達できないことを利用して試料を分離します。イオントラップ型分離部は、電場・磁場でイオンを空間に閉じ込める方法です。イオントラップ型にも様々なタイプがあるようです。飛行時間型(Time of Flight、TOF)は、イオンの導入部から検出部まで、イオンが到達する時間により分離する方法です。一定の電圧でイオンを加速すると、電荷の大きさ、質量によってイオンの速度が変化します。このため、検出部に到達する時間はm/zに依存するようになります。磁場セクター型分離部では、加速したイオンに磁場をかけ、曲がり方で分離する方法です。検出部の前にはスリットがあり、特定の曲がり方をしたイオンのみを検出することができます。曲がり方がm/zに依存します。

検出部では、イオンから電子を放出させ、その電子を補足することでイオンを検出します。検出部にも様々な種類があります。

上記のように、1段階のMSで物質の分離が達成できない場合には、2つの質量分析部を持つタンデム質量分析(MS/MS)を用いることがあります。1つ目の分離部でm/sにしたがい分離させ、分離したものをもう一度MSで分離します。分離を2回挟むことで高分解能の結果を得ることができます。1つ目のMSで分離したイオン(プリカーサーイオン)の一部は解離させます。ココでの解離とは、高分子物質などを2つ以上の分子に分離させることを指すようです。解離により、結合エネルギーのちがいや分子構造を特定するのに用いられます。イオンの解離の方法は衝突有機解離(CID)とポストソース分解が一般的な方法です。

MS/MSで用いられる質量分析部にもいろいろなものがあり、4重極型を3つ並べた三連4重極型、3つ目だけTOFの4重極飛行時間型、飛行時間型が2つ並んだ飛行時間飛行時間型などがあります。それぞれQ-q-Q型、Q-TOF型、TOF-TOF型などと呼ばれます。

MSとMS/MSには測定様式があり、MSでは全イオンを調べる方法、特定のm/zを調べる方法があります。MS/MSでは、1つ目のMSで得られた一部だけを2つ目のMSで分離し調べるもの、2つ目のMSで得られた一部のイオンのプレカーサーイオンを調べるもの、イオンの解離によって質量が減少する(分子が分離する)ものを調べるもの、2回のMSそれぞれのm/zを特定して調べるものなどがあるようです。

他の測定機器と同様、MSも最適化が必要です。チューニング、キャリブレーション、質量分解能を適切に調整することで精度と確度の高い結果を得ることができます。