ICH E9 臨床研究における統計解析 5

ICH E9は臨床研究における統計解析の原則に関するガイドラインです。5ではデータの取り扱いについてまとめています。

独立データモニタリング委員会は(主に)スポンサーが準備する、効能や安全性の評価委員会の一つで、中間解析を通じてスポンサーに臨床研究の終了、継続、中断に関する意見を述べることが目的となります。委員会の運営では、文書化した手順に従い評価を実施し、会議の記録はすべて保管します。独立データモニタリング委員会はIRB/IEC(治験審査委員会、治験倫理委員会)とは独立の、統計専門家から構成される委員会で、高い独立性を保つことで盲検を維持し、治験の信頼性を保ちます。

統計解析方法はすべて計画書に記載し、詳細を統計解析計画(Statistical Analysis Plan)として文書化します。統計解析計画は盲検解除前に策定しておく必要があります。統計に用いるデータセットの取り扱いは計画書内に定義しておきます。データセットの種類に関わらず、患者の統計情報と病状の初期状態(ベースライン)は記録します。被験者の中断などの統計への影響を明らかにし、計画書からの逸脱や被験者の除外を減らすよう努めます。手順不遵守などが起こる場合には、その内容、原因、日時等の詳細な記録を残します。Full Analysis SetはIntention-to-treat(治験参加時に実施した割付に従い分析すること)に従うデータセットを指します。Full Analysis Setにおいても、安全性問題、投与失敗、データ欠損等でデータを取り除くことがあるとされています。Full Analysis Setでの解析には計画書の不遵守が結果と結論に影響を及ぼす可能性を含みます。欠損データがある場合には、代入法が使用可能である場合もあります。Per Protocol Setは、計画書を遵守した患者のみのデータを指します。Per Protocol Setから情報を除く場合には、正当な理由が必要です。計画書の遵守を維持できるかどうかが効能に依存する場合(効能がなくて治験を止めてしまうような場合を指すと思われます)では、結果の信頼性は低くなります。したがって、Per Protocol Setでの解析では不遵守の起こった頻度や時期に注意を払う必要があります。確証的研究では、Full Analysis SetもPer Protocol Setも解析し、結果の信頼性を確認する場合があるようです。一般的に優越性研究ではFull Analysis Setを、同等性・非劣性研究ではPer Protocol Setを使用することが望ましいようです。

欠損値や外れ値はバイアスの原因となりえます。欠損値を減らす努力は必要となりますが、通常の臨床研究ではほぼ起こると考えてよいようです。欠損値の取り扱いの一般的方法はありませんが、計画書において欠損値や外れ値の定義、統計処理法を示しておくことになります。データの変換(対数変換や割合など)を行うときには、変換するデータの種類、変換の方法、理由を計画書で説明します。

統計解析では、推定、信頼区間、仮説検定を多用します。計画書において、仮説の設定、用いる統計手法、推定や信頼区間計算の方法を定めておきます。特に片側検定(非劣性研究で用います)を使用する場合には使用理由の説明が必要となります。片側検定では通常第一の過誤を半分としてしまうため、第一の過誤を2倍に設定して適切な信頼性を保つことが望ましいとされています。統計方法は評価項目に対する知識(整数値かどうか、負の値の有無、分布の形、ばらつきなど)を利用して設定します。主要評価項目に対する主要な解析に関しては、副次的なものとは明確に区別します。主要・副次評価項目以外で解析対象とするデータがある場合には、計画書であらかじめ定めておきます。モデルを使用して解析する場合もありますが、そのような場合にはモデルの説明とその限界をあらかじめ計画書に示しておく必要があります。