打錠4

打錠は粉体を圧密し、錠剤にする工程を指します。4では、打錠のパラメータと錠剤の状態についてまとめています。打錠の主なパラメータは打錠圧力と回転盤回転速度になります。打錠圧力はローター間の距離と粉体の充填量で決まり、回転速度はモーターによる回転のみで決定します。共に打錠障害や錠剤品質に大きな影響を与えるパラメータとなります。

打錠圧力は粉体を圧密するときの圧力を指し、高いほど錠剤硬度は高く、溶出性は下がります。高いとラミネーションやキャッピングが起こりやすくなる特徴があります。粉体の充填量は充填時の下杵の下げ幅で調整し、ローラー間距離は機械的に制御しています。

回転盤回転速度は圧密や粉体充填にかかる時間に影響するパラメータです。速いほど粉体から空気が抜けにくくなり、キャッピングを起こしやすくなるとともに、圧密による塑性変形にかけられる時間が短くなるため、成形性が悪化します。回転盤回転速度が速いと杵臼間の摩擦が大きくなるため、杵臼の温度が上がり耐久性に影響を与えるとともに、臼への粉体重点がばらつきやすくなります。通常速いほど品質がばらつき、遅いほど生産性が低くなるため、丁度いい回転速度を見つけて設定することになります。

打錠圧力のプロファイルとは、ローラーの大きさに依存した打錠圧力の時間変化を指します。ローラーが大きいほど力がかかる時間が長くなるため、回転速度を早くしたいときにはローラーが大きいほど有利となります。ローラーと触れる杵の上面部分の形状もプロファイルに影響を与えます。

打錠3

打錠は粉体を圧密し、錠剤にする工程を指します。3では、打錠障害についてまとめています。打錠障害とは打錠における製品不良の問題を指し、そのタイプにより様々な名前がついています。スケールアップによる回転速度上昇では、通常ほとんどの打錠障害が起こりやすくなります。

スティッキングは打錠杵に粉が付着し、錠剤表面から粉を剥がしてしまうことで錠剤表面に剥がれた跡が残ることです。粉が細かく、付着性であれば起こりやすくなります。滑沢剤の量や混合度合いが不適切な場合にも起こります。粉が細かい場合には造粒状態を変えることで改善される場合もあります。杵には様々な表面加工を施すことができるため、費用に余裕があれば杵の表面加工で対処することも可能です。

バインディングは杵ではなく臼に粉体が付着し、錠剤の壁面(側面)に摩擦が生じることを指します。通常錠剤の側面に縦線が入ることでわかります。臼の内壁に粉が付くため、粉の挿入や引抜きに掛かる力が増大し、ひどい時は打錠杵が引き抜けずに打錠できなくなったりもします。粉の付着性や臼の材質が原因となるため、臼材の変更や造粒状態の変更で改善できることもあります。

キャッピングやラミネーションは、錠剤内部に圧縮空気が残ることで、錠剤面に平行な線で割れやすくなることを指します。線にそって割れやすくなることをラミネーション、表面が割れて剥がれることをキャッピングと呼びます。打錠速度が速く、予圧の調節がうまく行っていない場合には圧密時に空気が抜けず、キャッピングしやすくなります。テーパー臼の使用や、打錠速度・予圧の調整で制御できる場合もあります。

クラッキングは錠剤に割れが発生することで、通常それほど見ることはありませんが、錠剤の弾性変形力(圧密後に元の形に戻ろうとする力)が大きいと割れることもあるようです。弾性変形が残るのは粉体の性質にもよりますが、圧密時間と圧密にかかる力が足りない場合が多いため、打錠の回転盤回転速度を下げることで対処できます。

ピッキングは錠剤の表面に剥がれが生じて、穴ができることを指します。刻印錠の島抜けなどが代表的です。原因はスティッキングや刻印のデザインにあります。刻印のデザインの見直し、造粒状態、滑沢剤混合などを調整することで対処できます。

チッピングは錠剤の角がかけることを指し、排錠時に角にストレスが掛かることが原因で起こります。スティッキングにより錠剤の角が剥がれている場合もあります。錠剤形状を丸めたり、造粒、杵の表面処理などで対処します。錠剤の角欠けの問題は打錠だけでなく、皮膜工程でも起こるため、皮膜錠では角が丸まった錠剤が選択されます。

打錠2

打錠は粉体を圧密し、錠剤にする工程を指します。2では、錠剤の形状やToolingsについてまとめています。

錠剤への標識は錠剤印刷や刻印によって行います。印刷技術がなかった時代には刻印が主流でしたが、現在は印刷錠が増えていると思われます。錠剤が小さいと刻印は難しくなり、刻印部分、特に島(0や6、8などの丸部分)が抜けることがあります。抜けを防ぐためには刻印の幅(太いほうがよい)、フォント、刻印の溝の形状に工夫が必要となります。割線は錠剤を割って使用するための線を指します。刻印と同様に、割線も錠剤に溝を作ることで成形します。処方量を上材料の半分にしたいときに有用で、調剤時に好まれる傾向があります。通常上杵に割線をつける場合が多いようです。

Toolings(臼杵)の鋼材は杵臼の付着性・耐久性・耐錆性を決定する重要な要素です。通常普通鋼材と高価な改良鋼材から選択することになります。改良鋼材は耐久性や付着性に有用な特徴を持ち、高い打錠圧力に対しても破壊が起こりにくい場合が多いです。臼にもより硬い鋼材を用いる場合があります。共に耐久性等に高価があるため、費用対効果を検討して採用することになります。

マルチティップ杵臼は、一本の打錠杵に複数の杵先がついているものを指します。海外では一般的に使用されており、一度に複数の錠剤を製造することができるため、効率的な生産に貢献します。杵先面積が経るため、通常錠剤は小さく設計します。杵先だけ交換できるものもありますが、構造が複雑となり、清掃やメンテナンスに特殊な工夫が必要になります。杵と臼の接触面積が大きくなるため、摩擦熱が大きくなる問題もあります。

打錠圧力は杵臼の決定に大きな影響を与える因子です。圧力自体は杵臼ではなく、製剤の特性によって決定します。通常打錠圧力が高くなると溶解性が下がり、錠剤の硬度は上がります。製剤の特性によって打錠圧力が決まると、打錠圧力に合わせた杵臼を準備することになります。杵の製造元が杵臼の耐久打錠圧力を示している場合が多いため、その打錠圧力を元に、余裕のある杵臼を選択することになります。

杵臼の保守もその寿命を延ばし、製品品質に悪影響が出ないようにするためには重要な要素です。使用前・使用後に破損等をチェックし、杵先が欠けないよう包装の方法についても維持管理します。洗浄は専用の洗浄機を用いて行い、水分などによる錆を防ぐ必要があります(通常は食用油を表面に塗布することになります)。状態が疑わしい杵は交換や製造元によるメンテナンスが必要となります。

杵臼の購入に際しては、杵臼の図面確認、錠剤形状の確認を事前に行います。依頼したデザインに応じて製造元が作成した杵の図面、錠剤サンプルを確認し、承認を取ります。承認後に契約、購入、納入と移行していきます。契約から90日以上かかるのが一般的なようです。

打錠は基本的にスケーラブルなので、スケールアップ時は何もしなくても製造することはできますが、生産効率向上のために打錠の速度を上げることがあります。打錠の速度を上げると重量の均一性や錠剤の硬度が下がるため、適した打錠圧力や打錠速度の検討が必要となります。

打錠での圧力は基本的に2回かかる構造になっていて、それぞれ予圧、本圧と呼ばれます。予圧では粉体から空気を抜き、ある程度の形に圧縮成形します。本圧で錠剤を押し固め、製品の錠剤形状を成形します。予圧はキャッピングなどの打錠障害と関与しているため、打錠の重要な要素となります。本圧は錠剤の厚み、溶解性、硬度を決定する要素となります。

打錠では粉体や原料の弾性、可塑性、硬度が重要となります。圧をかけた後に形が戻ることを弾性変形、圧により形が不可逆に変形することを可塑性と呼びます。可塑性が高く、弾性が低い粉体ほど成形性が良くなります。可塑性は錠剤硬度や打錠障害などに影響し、打圧や加圧時間、粉体の可塑性の影響を受けます。

打錠1

打錠は粉体を圧密し、錠剤にする工程を指します。通常はロータリー式の打錠機と呼ばれるものを使用し、粉体を下杵、上杵、臼で挟んで圧密することで錠剤にします。ロータリー式打錠機は粉体を供給する部分、回転して打錠を行う部分、打錠後の錠剤を排出する部分からなります。供給部が杵臼に粉体を供給し、回転打錠部で圧密する形となります。このあたりはI-Holland菊水製作所のホームページにわかりやすく記載されています。

品質のよい錠剤を打錠するためには、粉体の性質が重要となります。粉体の流動性が低いと杵臼に粉体が適切に供給されないため、質量変動などの原因となります。圧縮成形性の悪い粉では、打錠に高い圧力が必要になったり、錠剤が欠けたり割れたりしやすくなります。錠剤は圧密するため、水への溶解性が粉体より下がります。適切な溶解性を持つ錠剤を製造するためには、錠剤が崩壊しやすかったり、有効成分が溶けやすくなるような工夫が必要となります。

打錠のツール(Toolings)として、上杵・下杵・臼があります。ツールは錠剤形状を決定し、打錠の圧力の最大値に影響します。適切な形状・力学的な強さ・表面処理・材質などが粉体の付着性や耐久性に影響します。通常錠剤の形状は製造の容易さや錠剤の機能だけではなく、営業部門が売りやすい特徴を持つ必要があるため、営業・研究・製造部門の合意の下で決定されます。

ツールの規格はUSの規格であるTSM(IPT)とEU規格であるEUの2タイプがあります。日本ではTSMが主流で、EUの規格はI-Hollandが配布しているようです。杵にはBタイプとDタイプがあり、それぞれ胴の部分の太さが異なります。

杵にはレリーフと呼ばれる出っ張りがついています。この部分により、臼にくっついた粉体を取り除くとされているようです。取り除くためには鋭い角度を持つほうが良いとされていますが、実際の臼への付着性は粉体の特性によることが多いと思われます。臼表面やレリーフ表面の加工等により、摩擦係数が下がっていれば付着は小さくなりやすくなります。

杵のキーは、杵の回転を防ぐためにつけられている金具を指す言葉です。両面刻印や楕円錠では、上下の臼の位置や方向が重要となります。円形の錠剤では杵が回転する場合が多いと思いますが、両面刻印・楕円錠では回転せず、上下の形状が合うように、キーによって杵の回転が防がれています。

テーパー臼は、臼の穴の上下がやや広くなっているものを指します。圧密するときに空気が逃げやすいため、錠剤内に圧縮された空気が残って起こる錠剤の割れ(キャッピング)を防ぐことができます。高速打錠を行うときや、カップ(錠剤の上下面の曲率)が深いときには有用となります。

杵臼のデザインは、打錠に必要となる圧力により決まります。打錠に高い圧力が必要であれば、強い力がかかっても欠けたりしない、力に強いデザインを取ることになります。錠剤の曲面(カップの深さ)が深いほど、打錠圧力による破壊を受けやすくなります。通常皮膜錠では錠剤がうまく転がる、角が丸いデザインを選択します。打錠に問題が起こりにくいため、通常円形の錠剤が製造では好まれますが、楕円などの錠剤も多く存在します。

カップにもいろいろ種類があり、1つの角度で形成されているものや、2つ以上の角度を変化させてあるものなどがあります。カップが深いほど錠剤は小さく見えやすくなります。2つ以上の角度を持つと体積を大きくすることができますが、通常このような錠剤はカップが深くなり、キャッピングや耐久性の問題を持つことになります。

乾式造粒

乾式造粒は原料となる粉体をローラーで押し固めることで粒とする造粒方法です。スクリューで原料をローラーに押し込み、2つのローラーの間に入った原料をローラー間にかかる圧力で押し固めます。押し固めた原料は板状になりますが、これを砕いて粒にするのが乾式造粒です。乾式造粒は水分や熱をかけないため、水分や熱で分解するような有効成分でも使用可能です。スケールが変わっても機会自体を変えなくてよい、連続生産性を持ち、装置も単純です。ローラー間の圧力やスクリューでの原料の押し込みを調節することで造粒物の密度を変え、溶出性を調整することもできます。粉体に滑沢剤を加えないとローラーに粉体がくっつくため、原料に滑沢剤を加えることになります。

乾式造粒はローラーを抜けるときに、脱気と圧密が起こり、次に圧密だけが起こるローラーの中心部を抜け、圧力が抜けた後弾性的に厚みが戻るという形で造粒が進行します。この圧密の度合いはスクリューが速くなると粉の供給量が多くなるため高くなります。同様にローラー間の圧力が高いとより固く粉体が押し固められます。通常ローラー間の圧力は気圧もしくは水圧で制御されています。ローラー速度が速くなると原料供給が減ったのと同じような効果を示すとともに、圧密時間が減るために造粒物の密度は下がります。乾式造粒のスケールアップにおいて、造粒機自体を大きくする場合にはロールの幅、直径、速度、押し固められた粉体の厚みが重要な要素となります。通常圧密後の粉体の厚みを圧密の度合いの指標とし、望ましい厚みを持つ板が形成されることを確認してパラメータを調整します。

流動層造粒2

流動層造粒は粉体を吹き上げて流動させ、その流動している部分にスプレーを吹きかけつつ乾燥させることで造粒する方法です。2では、流動層造粒に関する各要素と造粒の状態についてまとめています。

流動層造粒では、スプレーで粉体を濡らし、濡れた粉体同士が結合することにより造粒物が成長していきます。開始直後は濡れが少なく、ゆっくりと造粒が進み、濡れが十分になると造粒速度は上がります。粉体同士の結合は溶媒である水と結合剤により起こります。粉体の吹き上げと流動により、弱い力で結合している粉体同士は離れ、解砕されます。

流動層造粒では多くのパラメータが造粒状態に影響を与えます。仕込量自体が解砕力や生産能力を決定し、スプレーの数や位置、スプレー速度やアトマイジングエアは粉体の濡れ具合や粉体の温度に影響を与えます。送風量や送風温度は粉体の流動や温度に影響することで造粒状態を変化させます。

どのような造粒方法においても、処方自体は造粒に大きな影響を与えます。水溶性原料を使用すると水を付着し、乾燥しにくくなるため造粒が進みやすくなります。表面積が大きい原料ほど造粒物は小さくなる傾向になるようです。スプレーの結合液濃度は2-5%が一般的ですが、結合剤を粉のまま原料として加えることもあります。この場合には造粒物が成長しやすくなります。

送風量や露点、温度も造粒に大きな影響を与えます。露点は通常外気取り込み時に管理するため、ほぼ無視できます。風量は粉が吹き上がり、流動するように設定します。流動は造粒が進み、造粒物の重量が増えると起こりにくくなるため、造粒とともに除々に風量を上げていく必要があります。送風量と温度が製品温度を決定し、乾燥速度に影響を与えます。

スプレー量は潜熱による温度低下に影響を与えるとともに、粉体の濡れを進めることで造粒速度を決定します。スプレーミストが大きいほど乾燥しにくくなり、粉体の濡れ・造粒が進みます。スプレーミストのサイズはアトマイジングエア(液体をミストにするための圧空)とノズル自体の形状によって決まります。造粒では、造粒物の粒子径に対するスプレーの粒子径の比が重要となり、大きいほど造粒が遅く、小さいほど早くなります。

流動層造粒のスケールアップでは流動層・粉体の温度・湿度が重要な要素となります。スケールアップでは通常風量が増加します。そのため、入力する熱量と、スプレー潜熱による熱の損失を計算する必要があります。スケールアップ後には粉体を吸引輸送(空気輸送)することが多いため、空気輸送の効率自体も検証しておく必要があります。粉体量が多く、重みが増すと、粉体の重量による圧密が起こるため、造粒物の性質が変化することもあります。

流動層造粒1

流動層造粒は粉体を吹き上げて流動させ、その流動している部分にスプレーを吹きかけつつ乾燥させることで造粒する方法です。医薬品製造では一般的に使用されています。流動層造粒では、粉体を加温しつつ吹き上げて混合し、結合剤溶液をスプレーでふきかけつつ乾燥させ、粉体同士をつなぎ合わせて粒にしていきます。規定のサイズまで粒が成長したら十分に乾燥させ、次工程の中間製品とします。流動層造粒では間隙が多く、密度の低い、均一なサイズの造粒物を作ることができます。

流動層造粒機にはトップスプレー型、ワ-スター型、転動流動層型の大きく分けて3種類があります。トップスプレー型(横からスプレーする場合もあります)は最も一般的に用いられている流動層造粒機で、結合剤を上からスプレーで吹きかけます。原料は容器下部から熱風で吹き上げ、舞い上がった粉体にスプレーがかかります。上部には排気口とフィルターが装着されており、フィルターで原料が抜けていくのを防ぎます。スプレードライとして用いられることもあるとされていますが、ごく稀にしかスプレードライには用いられず、通常はスプレードライにはスプレードライ専用機が用いられます。

ワ-スター型は流動層中央に筒があり、筒の内部の粉体を吹き上げる構造の流動層造粒機です。ワ-スター型では粉体は筒の中を上部に向かって舞い上げられ、スプレーは舞い上げられる下側から吹き付けられます。スプレーでは通常アトマイジングエアと呼ばれる、液体をミストにするための送風が行われているため、下からの熱風に加えてスプレーに入る空気も粉体を吹き上げることになります。原料は筒の中央から外側へ移動し、筒の下側にある隙間から筒の中に入り、吹き上げられるという流れ(流動)を持ちます。ワ-スター型は微粒子コーティング(粉体同士をつなぐのではなく、粉体の表面にフィルム層などを作る工程)によく用いられます。

転動流動層型はトップスプレー型の流動層造粒機と類似していますが、粉体をかき混ぜるための羽根がついているのが特徴です。かき混ぜることでせん断力が発生し、大きくなりすぎた造粒物を小さくする効果が得られます。かき混ぜるため、粉体は比較的圧密され、密度が高くなりやすくなります。微粒子コーティングにも使用されるタイプの流動層造粒機となります。

流動層造粒機はスプレーを除くと乾燥機としても使用できます。医薬品製造では、湿式造粒の多くはこの流動層乾燥機で乾燥されています。流動層乾燥機では熱風を下から吹き付けてかき混ぜながら乾燥させるため、造粒物が小さくなり、速く乾燥する特徴を持ちます。連続生産などでの乾燥はほぼ流動層乾燥機のみで行われます。

流動層では、スプレー液の乾燥に伴う潜熱(蒸発熱)と温風の顕熱(加熱)のバランスが重要となります。容器からの熱の損失や、排熱による熱の損失も計算に入れ、造粒中の温度を計算・管理します。一般的に温度が高いと水分が少なくなり、造粒は進まなくなります。逆に温度が低いと水分が多くなり、粉体同士がくっつきやすくなるため、造粒は進みます。微粒子コーティングでは粒同士の結合をさけるため、温度を高めに設定します。熱計算と同様に水分量の計算も行い、その製剤に適した温度・水分での造粒を行い、望ましい造粒物を得られるよう調整しつつ製造を行います。

湿式造粒3 スケールアップ

スケールアップとは、少量や中量で開発された製品の製造ボリュームを増やし、市販用の製造とすることを指します。スケールアップ前後では製品の品質が一致するようにしたいところですが、機械が大きくなり、仕込み量が大きくなると粉体にかかる力が変化します。このため、スケールアップ後の工程パラメータを調整し、品質の同等性を確保することになります。工程パラメータの設定時には、無次元の指標を一致させるのが良いとされているようです。機器には定められたサイズがあるため、少量、中量、スケールアップ後でそれぞれサイズによる影響(回転羽根の先端速度や遠心力、深さ方面の圧密など)をあらかじめ計算しておき、それに合わせてパラメータを調整するのが良いとされています。

湿式造粒にはForm granulationというものがあるようです。結合剤をスプレーや液ではなく、泡として添加する方法で、スプレーよりも均一性を高めやすいとされています。撹拌造粒では粉体の上に結合剤の泡を乗せ、泡が消えるたびに結合剤を追加していきます。この方法ではスケールアップが比較的容易であるとされています。

湿式造粒2 湿式造粒の基本的事項

湿式造粒の工程デザインとして、造粒機・パラメータ・造粒の量などについてまとめています。湿式造粒では、有効成分や添加物の性質、使用機器、工程パラメータ、造粒終点などが工程のデザインに影響します。個々の要素を理解し、各ステップが造粒物に与える影響を考慮することが重要となります。

造粒機は処方や有効成分の性質に従い決定します。水にふれると不安定になる有効成分では流動層(や乾式、直打)が望ましいとされています。造粒終点での粒度が不安定な場合にも流動層が有用です。造粒原料がふかふかしていて、かさ密度が低い場合には撹拌造粒が望ましく、コスト的にも撹拌造粒が流動層より有利となります。流動層では溶出速度が高めになりやすいため、溶出を下げる必要があれば撹拌造粒のほうが良いとされています。

撹拌造粒の工程パラメータとしては、造粒原料の量、加水時間、撹拌羽根の速度、造粒原料の温度、加水方法やスプレー速度、造粒機のデザイン、乾燥や整粒の方法、チョッパーの速度、造粒原料の体積など、多用なものが設定可能です。複数ロットを連続製造する場合には、熱や原料の残留の影響を考慮します。

造粒原料の量は造粒物の密度に影響します。造粒物の量が多いと、下部が重みで圧密されるため、造粒物の密度が高くなります。加水すると密度が上がり、さらに加水すると造粒物の密度は下がるようです。期待する造粒密度と生産効率を考慮して原料の量を決定します。

湿式造粒における加水時間の影響は処方や機器により異なります。乾燥においては静置して乾燥する場合と比較し、流動層乾燥機では造粒物が細かくなる傾向があります。錬合速度が速くなると造粒物は荒くなり、錬合時間とともに錬合に必要となる力(トルク)が上昇していきます。

造粒中の温度が高いほど、造粒が進みやすくなります。温度は日中温度の季節変化などの影響を受けるとされていますが、日本の製造所では通常作業室の温度はコントロールされているため、外気温の影響はほぼないと考えて良いかと思います。錬合時間が長くなると粉体に加わるエネルギーが大きくなり、除々に造粒物の温度が高くなっていきます。

造粒物への加水は2種類あり、液体をそのまま加える場合とスプレーで加える場合があります。スプレーで加えたほうが均質で、細かい造粒物が得られる傾向があります。そのまま加えた場合には粉体の濡れ具合に不均一性が生まれる場合があります。スプレーを用いる場合には、スプレーの液滴サイズとスプレーから粉体までの距離が造粒物の質を決定する重要な要素となります.

湿式造粒1 湿式造粒の基本的事項

このあたりから、Developing Solid Oral Dosage Forms(固体経口製剤の開発、Academic Press)を読んで勉強した内容となります。この教科書は固形経口製剤の製造に関わる技術、知識等がまとまって記載されているため、製剤の製造や開発に非常に有用な内容となっています。

湿式造粒は粉体に結合剤と溶媒を混ぜ、粉体の粒子サイズを大きくする(造粒)方法の一つです。医薬品では錬合造粒と流動層造粒、押出造粒が代表的な湿式造粒です。造粒では粉体の密度、流動性、圧縮成形性や均一性、分散性、輸送性を高めることが目的となります。湿式造粒は直打や乾式造粒と比較し、利点が大きいときに採用されるとされていますが、これは海外ではそのコストの低さから直打や乾式造粒が好まれるためだと思われます。日本では湿式造粒を採用することが一般的です。

湿式造粒の機器はたくさんあり、チョッパのついた錬合機、リボンブレンダー、高速撹拌錬合造粒機、流動層造粒機、スプレードライなどが湿式造粒機にあたります。押出造粒機も湿式造粒ですが、他の機器と比較するとかなり質の異なる造粒物が得られます。医薬品の造粒では高速撹拌錬合造粒機と流動層造粒機が最も一般的に用いられています。造粒機や造粒方法はAPIの性質、造粒物に求められる流動性や密度、水分や粒度の調節が効くこと、粒度の再現性が良いこと、打錠性や製造コスト、工程管理など、多岐にわたる性質に従い適切なものを選択することになります。

造粒物は水との混合具合により、ほんの少し濡れた状態から、スラリー(泥のように流体化した状態)まで変化します。造粒には粉体同士を水がつないでいる状態(索状水)とやや水が多い状態(毛管水)の間ぐらいの状態が良いとされています。

造粒物は、まず造粒の核ができ、核に粉体が付着して核が成長し、造粒物となります。さらに造粒を続けると造粒物表面に粉体がくっついて成長し、最終的には造粒物同士が結合するようになります。造粒物が結合するようになると造粒は通常過剰となり、打錠や混合での含量均一性にマイナスの影響を与えます。造粒では必要な水分量、最終的な造粒物のサイズ分布と完了時間、造粒後に必要とされる性質、工程管理の方法を考慮して処方や工程時間を開発します。

造粒前には通常有効成分や賦形剤などの原料をよく混合し、均一性を高めます。この混合は乾燥状態で行います。粉体の粒子が小さいことが多いため、この段階で有効成分などが失われる場合があります。

撹拌造粒では、混合後の粉体に結合剤と溶媒(通常は水)を加え、撹拌羽根で練りながらチョッパと呼ばれる刃で造粒物を切ります。必要によっては結合液はスプレーとして加えたり、あらかじめ粉体中に結合剤を混ぜ込む場合もあります。造粒機用量の50-75%を仕込み量とすることが多いようです。造粒初期には濡れの不均一性があり、造粒中にもよく混ざらない、側壁にくっついた部分などが残る場合もあります。造粒物のサイズは初期は50-100μm程度、完了前には100-400μmを目指すのが一般的なようです。通常造粒物のサイズが均一で、あまり微粉末が残らないものが出来上がるのが理想となります。造粒のエンドポイントは目視や、握ったときの崩れ方などで確認します。造粒物のサイズにばらつきがある、スケールアップで品質が変わる、安定性の問題、打錠での問題(スティッキングなど)はよく起こる問題です。工程を理解し、このような問題が生じないような造粒物を得られる工程を確立することが湿式造粒では重要になります。