コンパートメントモデル

コンパートメントモデルは、薬物の血中動態を数理的に解析し、血中濃度変化を吸収や排出などの要素に分けて検証できるようにしたものです。このスライドの内容は統計学入門の内容にそったものに少し情報を足したものとなっています。統計学入門のホームページに詳しい解説がありますので、そちらをご覧いただけると理解が深まると思います。
www.snap-tck.com

静注1-コンパートメントモデルは最も単純なPKモデルで、薬物を直接血液に注入した際の動態を示したものです。単純な微分方程式により、排出速度を示す係数を知ることができます。経口製剤になると、薬物が溶解して吸収される段階が加わります。溶出速度、吸収速度、排出速度により血中の薬物動態を説明する形となります。2-コンパートメントモデルは吸収段階、血液区画の他に組織に移行する分を計算することになります。2-コンパートメントモデルは連立微分方程式となり、かなり計算も解も複雑になります(https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/lmsr/pdf/2020-5.pdf)。解くと、指数関数を3つ足し合わせた形となります。この形だと交換可能な係数と指数のセットが3セットできてしまうため、線形回帰で解くのは難しくなります。上記の統計学入門のホームページでは、このモデルを簡潔化し、ニュートン法を用いることで係数を求めています。

生物学的同等性試験 検出力の計算法

生物学的同等性試験の例数設計では、非心t分布を用いた計算により検出力を計算します。検出力は第二の過誤(偽陰性)に関連したパラメータで、第一の過誤(偽陽性)は厳密に管理し、第二の過誤はややゆるく管理するというのがどの業界でも一般的な決まりとなっています。生物学的同等性試験では第二の過誤を0.2、検出力を0.8に設定するということになっています。

同等性試験における検出力はt分布から簡易的に求めることができ、実用的にはほぼこの簡易方法で問題ないのですが、より正確な計算では非心t分布を用います。非心t分布とは中心が左右にずれたt分布で、非心度と呼ばれるパラメータによりズレの大きさが決定します。同等性試験では2変量の非心t分布を用いた検出力の計算が最も正確となります。サンプルサイズの計算方法は以下の論文に詳しく書かれています。
Power and Sample size Estimation for Bioequivalence Studies

生物学的同等性試験ガイドライン 同等性パラメータの計算法

生物学的同等性試験では、標準製剤と試験製剤での血中濃度データ(PK)を解析し、同等性の判定を行います。同等性の判定はAUC(Area under curve)とCmax(最大血中濃度)で行いますが、その他のパラメータも計算し、同等性への影響を確認しておく必要があります。

生物学的同等性試験ガイドラインに記載されているように、同等性試験は通常クロスオーバー法を用いて行います。クロスオーバー法では先発製剤、後発製剤の投与の間に休薬期間を設けます。この休薬期間内に有効成分が消失しないような場合には並行群間を用いてもよいとされています。

同等性パラメータは血中濃度の時間変化から計算するパラメータです。CmaxとAUCの他に、Tmax(Cmaxを達成する時間)、T1/2(Cmaxの半分まで血中濃度が下がる時間)、MRT(平均滞留時間)Kel(消失速度定数)などを計算します。CmaxやTmax、T1/2は血中濃度曲線から読み取り、AUC、MRT、kelは計算式から求めます。AUCは通常台形法を用いて計算します。測定時間の間の濃度変化と時間の差から第京面積を計算し、それを足し合わせる方法です。血中濃度曲線の下の面積を計算することになります。kelと最後の血中濃度測定値(Clast)から無限時間後までのAUC(AUC∞)を計算し、AUC∞とAUCの比から休薬期間を推定する場合もあります。kelは血中濃度曲線の減少率を直線回帰で求める場合と、コンパートメントモデルから計算する場合があります。AUMCは濃度×時間の積算計算値で、MRTの計算に用います。MRTはAUMCとAUCの比を指し、薬物の体内での滞留時間を示すパラメータです。

クロスオーバー法では、被験者のばらつきだけでなく、薬物間、時期間、群間に差が生じる場合があるため、分散分析を用いて各間に差があるかどうか検証しておく必要があります(実際には差が検出されなくても、差が本当にないかどうかはわからないので必要な過程なのか微妙なところですが、ルールとして定められています)。分散分析ではなく、線形混合モデルで被験者のばらつきをランダム効果として計算する場合もあります。クロスオーバー法で3剤の比較をする場合には、3x6のクロスオーバー法を用います。これは、3x3のクロスオーバーだと群を等分できないためです。

信頼区間の計算は同等性試験ガイドラインに記載の通り、平均値の比の90%信頼区間が0.8~1.25であることが条件となります。有意水準5%の片側検定を2回行う方法もありますが、あまり一般的ではありません。90%信頼区間はt分布から求めることができます。

例数設計は、第一の過誤が0.05となるように調整した上で、検出力が80%となるよう設計するのが一般的です。同等性試験での例数は通常t分布から計算します(正確には非心2次元t分布を用いて計算するため随分複雑な計算になりますが、t分布を使用した方法とそれほど差は大きくなりません)。

粉体特性2

錠剤の製造において、粉体の特性は重要な要素となっています。2では、粉体特性の詳細についてまとめました。

流動性の測定法として、回転式ドラムや振動フィーダーでの雪崩的な流動が起こる角度・速度で評価するDynamic test methodというものもあるようですが、安息角ほどには一般的には利用されていないと思います。

圧縮成形性に関わるパラメータは経口錠剤の製造では特に重要となります。圧縮成形性は表面エネルギー、弾性、可塑性、静電力による影響を受けます。粒子径や粒子の形状による影響も受けます。

圧縮成形時には弾性と可塑変形、脆性や延性破壊が起こります。弾性変形は弱い力により物質が変形し、力が抜けるともとに戻るような変形を指します。粒子間の距離や弱い力で変形する場合に影響を与えます。可塑変形は圧縮成形の主な要素で、力のかかる方向に変形した後、力が抜けてももとに戻らないような変形を指します。弾性変形は力と変形が比例しますが、可塑変形では比例しなくなります。錠剤を錠剤の形のままにとどめておくのは可塑変形によります。脆性や延性破壊は強い力により粒子が割れることを指します。通常波粒子の裂け目が力により広がることで粒子が割れます。圧縮成形ではそれほど見られず、錠剤の硬度試験(割れ試験)で重要な要素となります。粘弾性は弾性変形の範囲でゆっくりと可塑変形が起こるような状態を指します。力がかかる時間に依存して変形し、打錠速度を変更する場合には重要な要素となります。

錠剤化の指標として、錠剤固形分の引張強度と変形圧力の比(粘弾性指標)が重要であるとされています。この比が低いと錠剤は割れやすくなります。打錠圧力と体積の比の変化を調べるとその粉体の可塑性を調べることができます。打錠中の圧密体積と打錠機から出てきた錠剤の体積ではやや異なり、後者はやや弾性により厚めになるようです。打錠中の値は粉体特性、打錠後の値は錠剤特性に依存しているようです。

粉体特性1

錠剤の製造において、粉体の特性は重要な要素となっています。粉体特性のうち、最も重要な要素の一つはその粒子のサイズ(粒子径)です。原料の粒子サイズ、粒度の分布、形やテクスチャは錠剤を成形する際に品質に影響を及ぼす要素となります。通常粉体の微粒子は球形ではないため、サイズは球形として換算したときのものとして計測するのが一般的です。粒子サイズはふるいやレーザー光分散法で測定するのが一般的です。粒子の形を観察する場合には顕微鏡を用います。粒子径の分布は通常対数正規分布し、正規分布にはならないようです。

粒子径、特に有効成分の粒子径は製剤にとって重要な要素となります。有効成分の粒子径は溶出性、含量均一性に影響を与えるとともに、その付着性や静電気の生じ方によって製造にも影響を与えます。粒子径が小さいほど溶出は高く、含量均一性もよくなる傾向にありますが、通常流動性や付着性は悪くなります。APIの製造ロットによるばらつきが製剤の品質のばらつきに直結する場合も多く見られます。

粉体の密度も成形性や流動性に影響を与える要素となります。粉体の密度は物質としての密度、かさ密度、タップ密度の3種類として測定されるのが一般的です。物質としての密度は間隙の空気を取り除いた密度で、ガスを充填させて測定します。物質密度には物質内の、ガスの交換が起こらない内腔は含んでいます。かさ密度は粉体取り扱い時の体積、タップ密度は粉体を叩いてやや圧密したときの密度を指します。タップ密度は球形に近い粉体ほど高くなる傾向があるようです。

粉体の流動性は打錠などで特に重要になるパラメータです。流動性の低い粉体は臼に入りにくいため、錠剤質量のばらつきの原因となります。流動性は水分含量や保管条件の影響を受け、粒子径が大きく、球形に近い粉体ほど高くなります。かさ密度とタップ密度の比を圧縮性指数、かさ体積とタップ体積の比をHausner比とよび、共に流動性を示す指標となります。流動性の指標としては安息角(山状に盛ったときの山の裾野の角度のこと)もあります。安息角は簡単に測定できるため、頻用されています。角度が小さいほど(山が緩やかなほど)流動性が高く、角度が高い(山が急峻)なほど流動性は低くなります。Shear Cellと呼ばれる、ずり抵抗を測定する装置もあり、より直接的に粉体の流動性を測定することもできます。ただし、Shear Cellでの測定は簡便性が低いため、製造の現場ではそれほど用いられていません。

皮膜5

皮膜工程は錠剤表面に薄いフィルムを形成し、錠剤や有効成分を保護し、外観を良くするための工程です。5では皮膜の品質に影響を与える錠剤の特性などについてまとめています。

皮膜では、錠剤の欠けやすさや重量のばらつき、安定性や配合性、形や刻印、錠剤の空隙率や崩壊性などの錠剤自体の特性によって品質への影響が現れます。錠剤の形状は錠剤のかけやすさと流動性の良さに影響を与えます。欠けやすい錠剤では角が削れ、丸まりやすくなります。特に仕込み量が多い場合には錠剤質量の影響でより欠けやすくなります。錠剤のかけやすさは回転式の欠けの評価機で行うのが一般的です。錠剤質量のばらつきは皮膜が乗っている量を正確に把握するために必要で、ばらつきが大きいとどれだけ皮膜が乗っているのか把握しにくくなります。

錠剤は皮膜中の溶媒、温度に対して十分に安定である必要があります。特に皮膜中の錠剤温度での安定性、水との配合性や分解の可能性が重要な要素となります。皮膜成分では特に可塑剤との反応が起こることが多いため、可塑剤と有効成分の配合性、皮膜成分間の配合性を検証しておく必要があります。

錠剤の形状は角が尖っていて、刻印が深いほど皮膜が難しくなります。角が尖っていればドラム内でかけやすくなります。通常皮膜に用いる錠剤は転がりやすい形状をしている方がよいとされています。刻印が深いとブリッジング(皮膜と刻印の溝の間に隙間ができること)が起こりやすくなり、逆に浅いと刻印が皮膜で埋まってしまって、刻印が見えなくなります。

錠剤表面の空隙率も重要な要素であるとされています。空隙が多いと皮膜がよりつよく錠剤と接着し、皮膜が剥がれにくくなります。空隙が低い錠剤では接着性の高い基剤が必要となります。崩壊性が低い錠剤では、皮膜による溶出遅延が大きくなるようです。

皮膜液の性質も皮膜の品質に大きな影響を与えます。皮膜の基剤の強度が低いと剥がれや割れの原因となります。特に錠剤の角から剥がれが起こります。色素や沈殿成分が多いと皮膜の強度は下がります。可塑性が低すぎても皮膜の割れの原因となり、高すぎても皮膜の形成不良の原因となります。

色素量が少ないと色はばらつきやすくなりますが、濃度が高いと皮膜は力学的に弱くなります。色素のうち、酸化チタンのような沈殿成分が少ないと皮膜の乗りが遅くなり(重みがある成分が少ないため)、逆に濃度が高いと粘度が高くなり、膜の緻密さが低下します。沈殿物がある場合には適切に分散・撹拌しないと皮膜のばらつきの原因となります。

皮膜液の粘度はスプレーミストの径に影響を与えます。特に200-250cpを超えるとミスト径の分布が広くなり、皮膜に適さなくなります。アトマイジングエアを高めればミスト径は小さくなりますが、350cp以上の粘度を持つ皮膜液は皮膜には適さないとされています。

皮膜4

皮膜工程は錠剤表面に薄いフィルムを形成し、錠剤や有効成分を保護し、外観を良くするための工程です。4では皮膜の品質に影響を与える熱交換などについてまとめています。皮膜の品質では、スプレー中の熱交換とスプレー自体が重要な因子になります。熱交換は送風量、送風温度、錠剤温度や湿度、スプレーは距離、ミスト径、スプレー液量が重要な要素となります。錠剤が適切にかき混ざり、均一にスプレーがかからないと品質のよい皮膜は形成されないため、スプレーが当たる錠剤の流動面や流動の様子も重要となります。

皮膜の熱交換は給気による熱の供給、排気による熱の排出、溶媒の潜熱と皮膜機の熱効率によって決まります。給気と排気の熱は風量と温度から計算でき、錠剤にはその熱量の差の分だけ熱が加わります。スプレーの量に依存してスプレー溶媒の潜熱(蒸発熱)が失われます。皮膜機から熱が漏れるため、皮膜機には固有の熱効率があります。これらの熱の供給と排出のバランスを取ることで、錠剤温度を一定に保ちます。

送風は錠剤温度を維持しつつ、スプレー液を乾燥させるために必要です。送風量が多いほど、送風温度が高いほど乾燥しやすくなります。風量が大きくなりすぎるとスプレーのパターンに影響を与えてしまうため、スプレー量に合わせて送風を設定するのが普通です。錠剤温度は熱交換の結果として達成される値です。送風による温度変化はゆっくり起こり、スプレーによる温度低下は速く起こります。皮膜が粘着性のときは錠剤間で付着しやすくなるため、乾燥気味に温度を高めに設定します。一方で乾燥させすぎるとスプレーが粉状になってかかるため、緻密さが失われます。

錠剤の流動はドラムの回転速度、仕込量、バッフル(邪魔板)、錠剤形状の影響を受けます。錠剤の上面が十分に流れ、かき混ざるような回転速度を選択して皮膜を行います。流れがスムーズでない場合には錠剤にかかるスプレー量にばらつきができるため、最終製品の皮膜にもばらつきが出ます。回転速度を早めることで錠剤の流動は良くなりますが、回転速度を高めすぎると錠剤の割れや欠けが起こりやすくなります。

スプレー速度(スプレー液量)はガンの性能、生産効率、乾燥能力などにより決定します。ミスト径は皮膜液が高粘度で、液量が多くなるほど大きくなります。大型の皮膜機では通常複数のスプレーガンを用いますが、このような場合にはスプレーがかかる場所が重ならないように設定します。スプレーの当たる位置の間に12-20cm程度、スプレーが当たらない場所を確保すると良いようです。スプレーエアが強すぎると錠剤が跳ねるため、あまりスプレーエアを高めすぎるのもよくないとされています。

スプレーのミスト径はそのばらつきが小さいほどよいとされています。大きい径の液滴があると、大きな濡れが発生し、不良錠の原因となります。皮膜液の粘性が高いと径が大きくなるため、適切な皮膜液の粘性を持つようにします。ミスト径は250μm以下となるのが良いようです。

スプレーのパターン(スプレーの噴出する面積や形)が広いほど、皮膜液量は高くできます。錠剤にスプレーが当たる面積が重要で、広いとたくさんの錠剤に一度に少量ずつ吹き付けることができるようになります。面積はスプレーを離すと大きくなりますが、離しすぎるとスプレーが掛かる前に乾燥する、スプレードライの状態になりやすくなります。パターンエアの強さやガンの配置も重要な要素となります。

皮膜3

皮膜工程は錠剤表面に薄いフィルムを形成し、錠剤や有効成分を保護し、外観を良くするための工程です。3では皮膜に用いるスプレーと皮膜工程の過程についてまとめています。

皮膜に用いるスプレーは、スプレーノズル、ポンプ、タンクから成ります。チューブはタンクからポンプユニット、スプレーへと結合されていますが、ポンプの後でリターンと呼ばれるタンクに戻るチューブが別途接続されています。ポンプは常時動かし、スプレーを出さないときにはポンプで送られた液はスプレーノズルへと送液されずに、リターンを通ってタンクに戻るような仕組みになっています。通常スプレー量は流量計で測定します。タンク内は常に撹拌し、分散物(主に酸化チタン)が沈殿しないよう維持します。

スプレーユニットは空気により皮膜液をミストにするものです。この空気はアトマイジングエアと呼ばれ、エアの量や速度によってミストの粒子径が変化します。ドラムは横方向に回転し、スプレーから流動層までの距離は回転の軸方向に等しくなっているため、スプレーの吹く範囲や形状は回転軸方向に変形させている方が錠剤に均一にスプレーが吹きかかります。このようにスプレー形状を変化させるための送風をパターンエアと呼びます。

スプレーのポンプにはギアポンプ、チューブポンプ、ローブポンプなどが用いられます。通常1-7気圧程度の圧力を生み出すことができるよう設定されているようです。チューブポンプが最も安価で管理も簡単であるため、最もよく使用されます。ポンプの圧力が高すぎると液漏れやチューブが外れるようなトラブルが起こりやすいため、低めの圧力で押し出すほうが良いとされています。ポンプによる脈動がおこることや、チューブ内に空気が入ることでスプレーのトラブルが起こることもあります。

スプレー量を測定するのは、通常液中の熱移動を測定することで流量を測定するマスフローメーターというものが用いられます。流量に応じてポンプ圧力を自動制御することで流量を安定させる仕組みが通常は皮膜機に備わっています。

皮膜工程は工程パラメータが確定し、状態が安定していれば自動化することもできます。通常は皮膜機のPCにパラメータをあらかじめ入力し、自動運転させることになります。

皮膜機購入後、製造を安定させるために皮膜機のサイズや仕込量の範囲を確認します。スプレー距離が近すぎず、遠すぎない最適な仕込量をあらかじめ確認しておきます(通常は最大仕込量の75%ぐらいまで使用できるようです)。錠剤の流動、スプレーから錠剤までの距離が重要な要素となります。大型の皮膜機には複数のスプレーノズルがついているため、個々のスプレーノズル間の液量、風量が均一となるよう設定します。均一であること、ミストが最適な形状・サイズを持つことはミストチェッカ(普通は網やフィルムで、液がついたらわかるようになっています)で確認しておきます。

錠剤をドラムに投入後、まず送風し、錠剤をゆっくりかき混ぜながら予熱します。予熱しないと錠剤の表面が濡れた状態から皮膜が始まることとなり、核となる錠剤に水分が吸収されることもあります。最適な温度まで予熱されたらスプレーを開始します。皮膜と錠剤の成分によってはまず下層のフィルムを形成します。下層フィルムにより配合性の悪い皮膜成分が有効成分に触れるのを防ぐことができます。引き続き皮膜工程を継続し、望ましい重量になるまでフィルムを巻いていきます。通常温度が低いと濡れやすく、皮膜は緊密になりやすく、高いと乾燥し、疎な皮膜になります。皮膜液の減りや錠剤重量の増え方から皮膜の効率を測定しておくことで、以降の製品での皮膜液準備量を最適化することができます。皮膜の表面の質によっては、見た目を良くするための上層を追加することもあるようです。錠剤重量が目的の値に達したら、スプレーを完了します。完了後に温度を上げ、一度乾燥させ、その後冷却します。冷却後20-30ºCまで温度が下がったら、粉末のカルナウバロウ(ワックス)を100kgに5-10gふりかけます。5分ほど送風せずに回転させ、ワックスを錠剤表面に行き渡らせ、錠剤の滑りを良くします。ワックスをかけた後、ドラムを逆回転させ、錠剤を取り出します。

皮膜2

皮膜工程は錠剤表面に薄いフィルムを形成し、錠剤や有効成分を保護し、外観を良くするための工程です。2では製剤の溶解性と皮膜の関係についてまとめています。

即放錠では、すぐに溶ける水溶性の高分子をフィルム剤に用います。セルロース系の化合物が一般的に用いられています。光防護、安定性向上、苦味マスキングなど、その目的に応じてフィルム剤を選択するとともに、製剤の外観や生産性、溶解性などもフィルム選択における重要な要素となります。

溶出制御剤とは、腸溶性や徐放性の製剤を指します。腸溶性製剤は胃での有効成分の分解や、胃特有の副作用などを防ぐために使用されます。徐放性製剤は投与回数を減らすとともに、長い時間血中濃度を安定的に保つために用いられます。共に皮膜の完全性が重要となり、不完全な皮膜では漏れが発生して機能が低下します。溶出制御剤では皮膜原料の選択がより重要となります。

腸溶性のフィルムコーティング錠では、Polyacidの高分子を使用します。Polyacidはカルボキシル基をたくさん持つ高分子で、pHが5以上にならないと水に溶けない性質を持ちます。通常は原料供給元が製造する基剤を基に皮膜液を調整します。徐放性製剤では水に溶けないフィルムを通常使用します。フィルムに微細な孔を空けたりすることで放出速度、頑強性、調節性などを調整します。フィルム基剤としてはエチルセルロースが代表的です。フィルムではなく、錠剤全体からの溶け出しで徐放性を達成するもの(マトリックス型徐放性製剤)もあります。

皮膜工程では、通常錠剤重量の2-4%を皮膜として形成します。放出制御製剤では膜の厚さが溶出性に直接影響するため、厚さの均一性や調節がより重要となります。腸溶性製剤では通常30-50μmの膜を形成します。小さい錠剤では比表面積が大きいため、錠剤重量に対して皮膜量が多くなることになります。

皮膜のドラム(パン)は横回転型の洗濯機と同様に、回転することで中の錠剤を流動させ、流動している錠剤の表面にスプレーを吹きかけることですべての錠剤にまんべんなく皮膜を形成するようになっています。錠剤の温度はあらかじめ上げておき、スプレーで温度を下げながら熱風で乾燥させていきます。ドラムには錠剤がよくかき混ざるようにバッフル(邪魔板)がついています。ドラムではスプレーが錠剤に均一にかかり、スプレーと乾燥のバランスが取れていることが重要となります。乾燥のため、通常ドラムには通気用の穴(パンチ)が開いています。熱風はドラム内へと送風され、パンチを抜けてドラム外に排出されます。皮膜機の多くには錠剤を排出する仕組みがついており、ドラムを逆回転させることで排錠できる仕組みを持つものが一般的です。

送風システムでは、外気を一度低温にし、除湿します。外気や排気に混入している異物はフィルターで取り除きます。ドラム内はやや陰圧となるように制御されています。送風の温度や量をスプレー量や乾燥の程度、錠剤温度を見ながら調節し、最適な皮膜条件を設定します。

皮膜1

皮膜工程は錠剤表面に薄いフィルムを形成し、錠剤や有効成分を保護し、外観を良くするための工程です。溶出制御性の皮膜では、溶出率を下げたり、徐放性をもたせたりすることもあります。一般的にフィルムの厚みは100μm以下で、錠剤にフィルムの基剤を溶かした溶液をスプレーしながら乾燥させ、フィルムを成形します。スプレーしながら乾燥させるため、そのバランスを取ることが重要となります。

皮膜機は横型洗濯機のような形状をしていて、ドラム、スプレー、送風部からなります。ドラムは錠剤を詰め、回転させることでドラム内の錠剤をかき混ぜます。ドラム内の錠剤にかき混ぜながらスプレーをかけることで、すべての錠剤に均一にフィルムを成形していきます。ドラムには穴が開いており(パンチ穴)、穴から高温空気を送風し、スプレー液を乾燥させます。

皮膜液の処方は通常フィルムを形成する高分子、可塑剤、色素、溶媒からなります。可塑剤はフィルムのガラス転移温度を下げ、柔らかくする効果を持ちます。色素は光防護性や外観のために加えます。高分子や可塑剤は溶媒に溶解もしくは分散させ、スプレーで吹きかけることになります。

高分子には様々な種類があるため、体内での溶解性、粘性、物理的特性などにより適切に選択します。分子量が高いほど粘性や引張強度が高く、分子量が小さいほど溶解性や付着性が高くなります。年生が高すぎるとスプレーミストの形状(主にサイズ)が悪くなり、皮膜の品質を下げる原因となります。

可塑剤によりガラス転移温度が下がりますが、皮膜は通常ガラス転移温度以下では硬く、丈夫になりますが、同様に刻印などに皮膜を行き渡らせるのが難しくなります。可塑剤により適切に膜を柔らかくすることで引張強度は下がりますが、皮膜の品質は上がりやすくなります。グリセリンポリエチレングリコールが代表的な可塑剤となります。

色素は製剤の識別や有効成分の光安定性を高めるために加えます。二酸化チタンは通常皮膜に加えることが多い成分で、白色の皮膜となります。その他に三二酸化鉄やタール色素などを用いることもあります。いずれも水には溶けず、溶媒に分散させて用います。光安定性向上のため、遮光性が高いことが重要な要素となります。

その他の成分として、付着防止剤や香料、界面活性剤などを加えることもあります。特に分散性の高分子などを用いるときには、水との親和性を高めるために界面活性剤を加えることもあるようです。徐放性の製剤では、高分子自体は水に溶けないものを使用し、フィルムに穴を空けることでゆっくりと有効成分が放出されるよう、小孔を作るための溶解性成分を加える場合もあります。

溶媒としては、水、エタノールメタノール、塩化メチレンなどが代表的なものです。昔はメタノールや塩化メチレンなどを用いられていたこともあったようですが、その毒性が高いため、現在ではほぼ用いられません。即放性の製剤では水溶媒を用います。ただし、有効成分が水に弱い場合もあるため、有効成分が原因で水を使わない場合もあります。水を溶媒とすると、その大きい蒸発熱(潜熱)のために温度を高めに設定する必要があります。有効成分が熱に弱い場合にもエタノールなどの有機溶媒を用いることもあるようです。